第479話 年の瀬の要塞村【中編】
「じゃあ、留守の間、よろしくお願いしますね」
「任せておいて」
「気をつけてね」
魔獣によって滅ぼされた故郷シトナ村へエステルとともに向かうため、数日間、要塞村を離れることとなった。
トアもエステルも、フェルネンド王国ではお尋ね者だが、執拗にふたりを追っていたディオニス国王はもういない。それ以降、目立った行動を起こしていないため、ひっそりと入国して故郷を訪ねようという計画だ。
その間、要塞村は村長代理として村医のケイスと市場の責任者であるナタリーが務めることとなった。
「おふたりの補佐は僕とアイリーン様にお任せください」
「あぁ、頼りにしているよ、フォル」
「それじゃあ、行ってきますね」
トアとエステルは三人に手を振って、まずはエノドアを目指した。
エノドアに到着すると、まず訪ねたのは宿屋――そう。元フェルネンド王国の大臣であるフロイド・ハーミッダに情報を求めたのだ。
「何? シトナ村の場所だって?」
最初はふたりからの言葉に驚いたフロイドであったが、事情を聞くと息をつき、ゆっくりと語り始めた。
――ここで、トアとエステルはこれまで知り得なかった真実を耳にする。
「シトナ村は……元々このセリウス王国にあった村なんだ」
「「えっ!?」」
ふたりは魔獣襲撃事件以降、フェルネンド王国にある教会でシスター・メリンカによって育てられた。それからはフェルネンドの民として生活をしていたため、すっかり自分たちの出身はフェルネンド王国だと思っていた。
「まあ、あの辺りは国境付近ということもあり、いろいろあったからなぁ……もう当時の王族関係者はいないだろうし、君たちも成長したからな」
つまり時効だとフロイドは言いたいらしい。
「じゃ、じゃあ、国内にあるんですね――シトナ村は!」
「うむ」
フロイドは店の奥から地図を持ってくると、ある場所を指さした。
「け、結構離れているんですね」
「まあな。どうする? 君らの村にいるドラゴンに乗っていけばそれほど時間はかからないだろうが……」
「いえ、馬を借りたいと思います」
村へたどりつくまでの道。
もしかしたら、昔のことを思いだすかもしれない。
というわけで、トアとエステルはそれぞれ馬を借りるために専門の店を訪れたが、そこに見慣れた顔が。
「おっ? トアにエステルじゃねぇか」
「今日はふたりだけか?」
「どうかしたの?」
現れたのはエノドア自警団に所属する、元聖騎隊の同期であるエドガー、クレイブ、ネリスの三人だった。
トアは三人にこれからの行動に対して話をした。
「故郷のシトナ村か……」
「あの時代にはもうフェルネンド領だったのね」
親が国の政治にかかわる存在だったクレイブとネリスは、その辺の事情を知っているようだった。
「しかし、馬で行くとなるとかなりの時間がかかるぞ」
「まあ、向こうに長居するというわけではないし、年が変わる前には戻ってくるよ」
「食料なんかも買い込んどけよ」
「あぁ、もちろんさ」
「怪我には気をつけてよ、エステル」
「ありがとう、ネリス」
ふたりはかつての同僚たちに別れを告げると、地図を片手にエノドアをあとにした。
目指すは――シトナ村だ。
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