第476話 新たな町・コステロ【後編】
新たに誕生する物づくりの町・コステロ。
そのコステロと要塞村を結ぶ鉄道――これを成功させるため、トアたちは責任者のスタンレーから依頼を受け、周辺に潜むモンスターを討伐に乗りだしていた。
「しかし、わざわざ村長である君が出張ってくる必要はなかったのではないか? モンスター討伐ということなら、銀狼族か王虎族の若者を数名寄越すだけでもよかった気はするが」
シャウナの問いかけに、トアは苦笑いを浮かべた。
「まあ、巨大モンスターっていうくらいですからね。もしかしたら怪我をしてしまうかもしれませんし」
「とは言うが……本当は町の様子を見てみたかったからじゃないのかい?」
「うっ……」
「そうよねぇ。そういう場合って、普通は村長であるトアが一番怪我を心配される立場だと思うけど?」
「同感ですね」
「僕もそう思います」
クラーラ、ジャネット、フォルの三人から正論でツッコミを入れられる。
それに対してトアは「あははは」と困ったように笑ってから、ある言葉を思い出していた。
――以前、要塞村での一日がループした時のこと。
原因は要塞村を危険視する時の精霊ルドフィクスにあった。
彼はやがて訪れるトアの死をきっかけに、要塞村のパワーバランスが大きく乱れ、世界を巻き込んだ大戦争に発展することを恐れていた。そうなる危険性を孕んだ要塞村は、ある意味、ザンジール帝国と似た存在であると言える。
トアとしては、たとえ自分が死んだとしても、要塞村が世界を混乱の渦へ叩き込むような事態にはならないだろうと踏んでいた。
それほどまでに、村民たちは固い絆で結ばれているという自信があった。
――ただ、まったく気がかりがないわけじゃない。
「…………」
視線は談笑しているクラーラとジャネットに注がれる。
エルフ族であるクラーラと、ドワーフ族であるジャネット。
普通の人間であるトアと彼女たちとでは寿命が異なる。
ふたりだけでなく、銀狼族のマフレナ、自律型甲冑兵のフォル、黒蛇族のシャウナ――この三人とも、寿命はまったく異なる。
同じ人間であるエステルは自分とまったく同じ年の取り方をするだろう。
現に、トアとエステルは初めて要塞村へ来た時よりも成長している。
ローザのように、魔法で若さを保つようなことをしない限り、近いうちに立派な青年となるが……その時、クラーラたちはどのような反応を示すだろうか。
「? 何? どうかしたの、トア」
「……いや、なんでもな――うっ!」
話の途中で、異様な気配を察知したトアは聖剣エンディバルを構える。
「おいでなすったようね!」
「そのようだな」
クラーラとシャウナも臨戦態勢へ入った。
その時、
「グオオオオオオオ!」
現れたのはひとつ目の巨人――サイクロプス。
「この辺りでは見かけないモンスターだな」
「見かけるほど近くにいるモンスターなら俺たちが近づこうとすると逃げだしますからね」
「なるほど。つまり、こいつはよそ者というわけか」
「グオオオオオオ――オッ?」
知能はほとんどないサイクロプスだが、本能で察したようだ。
目の前にいる、自分よりずっと小さな五人は――決して手を出してはいけない危険な存在であるということを。
サイクロプスを討伐し、コステロへと戻ったトアたちはスタンレーの代理として討伐を依頼してきたラウラに事のすべてを報告。
それを終えると、夕陽の中を要塞村へ向かってクラーラたちとともに歩きはじめた。
「……要塞村はきっと大丈夫だ」
「? 何か言った、トア」
「いや、なんでもないよ、クラーラ。――さあ、要塞村へ帰ろう」
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