第467話 後夜祭

 新たにセリウス王国の国王となったバーノン王。

 その記念すべき最初の仕事に選んだのは、要塞村収穫祭の開会宣言だった。


 バーノン王は祭りを楽しみながら、民の声を直に聞くため、積極的に祭りの参加者へ話しかけていた。

 最初は国王が直接声をかけていったことで動揺を隠せない様子の参加者たちであったが、それも時間の経過とともに薄れていき、徐々に馴染んでいった。

 その際、バーノンは国民からのさまざまな要望を耳にする。

 さすがにすべては覚えきれないので、側近にメモを取らせつつ、話を聞いていった。内容は些細なことから隣国との関係に影響を及ぼしそうなものまで幅広いものであったが、バーノンはそのひとつひとつをしっかりと聞いていった。


 結局、夜の部が始まるまで、バーノンと国民の交流会は続いたのだった。


 予定では一日だけの滞在であったが、バーノン自身の強い申し出により、要塞内で一泊をして次の日も参加することとなった。


 一国の――それも、今や大陸最大となったセリウス王国の国王が、一般国民とすぐ近くで寝食をともにするというのはいろいろと問題が発生しそうなものであったが、周囲に八極のローザやシャウナ、さらにトアやフォル、そしてクラーラにエステル、マフレナやジャネットがつくことでようやく城の者たちを納得させることができた。




 収穫祭二日目。

 

「城以外で朝を迎えるのは久しぶりだな」


 早朝にもかかわらず、バーノンのテンションは最高潮だった。

 この日は祭りを楽しみつつ、トアの案内で要塞村のさまざまなスポットを見て回った。


 中でもバーノンの関心を引いたのは、やはり神樹ヴェキラであった。


「おぉ……なんと神々しい……」


 これまでも何度か見たことがある神樹であるが、すぐ間近で見るのはこれが初めてということもあり、その眼差しは純粋な子どものようであった。


 それからしばらく神樹の前で話していると、次第に日が暮れて夜になる。

 すると、ここで祭りの締めくくり――要塞村の村民たちによる手作りランプを神樹へ飾る時間となった。


 その光景を見学したバーノンは、昼間とは違った姿を見せる神樹ヴェキラに驚きを隠せない様子だった。


「金色に輝く上質な魔力……これが君の強さの秘密というわけか」

「自分ではまだ強いっていう実感が湧いてこないのですが……」

「謙遜するな。ファグナスを通して報告されている君の戦果には目を見張るものがある」


 これまで、トアはさまざまな存在と戦ってきた。

 その中には、放っておくと国の存亡にかかわる者もいた。


 だが、トアは神樹ヴェキラから流れ込む魔力を聖剣エンディバルで完璧に操り、そういった脅威をことごとく退けてきた。

 トアとしては村を守るために戦ってきたというのが偽りのない本心なのだが、結果としてそうした功績はセリウス王国にとっても大きな好影響をもたらすことになっていたのだ。


「君には本当に感謝しているんだ、トア村長」

「そ、そんな……」

「これからもよろしく頼む」

「こちらこそ!」


 トアとバーノンは固く握手を交わした。

 村長と国王。

 その立場は大きく違うが、目指す場所は同じだった。



 こうして、二日に渡り行われた第四回要塞村収穫祭は大盛況で幕を閉じた。

 バーノンは城へと戻って行ったが、また来年も同じように村へやってくると公言。

収穫祭はセリウス王家にとっても秋の風物詩として語り継がれていくことだろう。



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