第466話 初仕事
戴冠式の翌日。
トアたちは朝霧が立ち込める早朝のうちに要塞村へと帰還する。
理由はただひとつ――この日が四回目となる収穫祭の日だからだ。
「マスター! すでに準備は整っています!」
「いつでも始められるわ」
王都へと出向いている間、トアに代わって村長代理を務めたフォルとナタリーに迎えられるトア一行。
その言葉通り、要塞村は早朝にも関わらず大賑わいだった。
いつもの朝市の賑わいとは段違いだ。
なぜなら、この日は朝早くから近隣のエノドアやパーベルだけでなく、鋼の山のドワーフたちや、オーレムの森のエルフたちなどなど、収穫祭に参加するため大勢の客でごった返していた。
今年から二日間という複数日開催となったこともあり、例年以上の来客数と盛り上がりを見せている。
「これは……大変だな」
「まったくね」
トアとクラーラは顔を見合わせながら笑い合う。
思えば、要塞村のスタートはこのふたりの出会いからだった。
あの時、クラーラがこの要塞に住むことをトアへ提案しなければ、今目の前に広がる光景はなかっただろう。
小さな偶然が引き起こした大きな奇跡。
それが、まさに要塞村そのものであった。
「朝食は済ませてきた?」
「あっ、いえ、まだですよ」
「だったら、そこでセドリックたちがおいしい焼きたてのパンを配っているから行ってみたら?」
「「「「「おお!」」」」」
王都から帰還した面々は、ナタリーの提案に乗って、セドリックたちエルフ族の焼いたパンを求めて市場へと向かった。
――一時間後。
「そろそろ約束の時間だな」
パンを食べ終えたトアは、賑わう収穫祭の会場から少し離れ、要塞の正門へと向かう。
これから来場する人々を出迎えながら、ある人物の到着を待っていた。
トアの他にも、クラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットの四人にフォルやローザ、それにシャウナという顔ぶれが正門で待機している。
すると、
「おっ! 来たぞ!」
トアの視線の先には、大所帯で要塞村を目指す一行の姿があった。
その中心にいるのは――バーノン国王だった。
「ほ、本当にいらっしゃるとは……」
「さすがは有言実行の王様ね」
驚くフォルに、当然といった感じに答えるクラーラ。
実は、戴冠式の際にトアはバーノン王からあるお願いをされていたのだった。
『私の初めての公務は、要塞村の収穫祭を視察する――先代国王が退くという意思を受け取った時からそう決めていたのだ』
そういうわけで、バーノン王は約束を果たすために要塞村へとやってきたのだ。
「ここの収穫祭もついに一国の王が参加するようになったか」
「年を重ねるごとに規模が大きくなるな。来年あたり、リラエルの紹介で神様が参加していてもおかしくはない」
冗談半分に語るシャウナ――だが、それが冗談で終わらないかもしれないという予感はあった。
「トア村長ぉ! 収穫祭を見に来たぞぉ!」
遠くから嬉しそうに手を振りながら叫ぶバーノン王。
それから、この収穫祭のために用意された特設ステージにて、バーノン王による収穫祭の開会宣言が行われた。
「これは是非とも代々引き継いでいきたいな!」
開会式を終えたバーノンは満足そうに笑いながら、人々と一緒に要塞村収穫祭を堪能したのであった。
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