第458話 意外な来訪者【前編】
要塞村牧場に新メンバーとして黒いドラゴン――クロが加わって数日後の朝。
「今日もいい天気ね~」
要塞村診療所の窓からのぞく青空を見上げながら、村医のケイスは体を伸ばしながら言う。その後ろでは、この診療所で働く冥鳥族のアシュリーが椅子に座り、市場で買ってきた新聞を読んでいた。
「本当ですねぇ」
「ちょっと、ちゃんと見てる?」
「新聞買ってくる時に見ましたよ。あとでシロちゃんやクロちゃんと一緒にちょっと空を飛んできます」
「お昼休みにして頂戴よ」
「分かっていますよ」
診療所で行われるいつものやりとり。
変わらない日常が今日も始まる――そう思っていたのだが、
「ちょっといいかな」
診療所に来客――それはつまり、患者であるか、どこかで怪我人か病人が出たことを知らせにきた者だ。
しかし、ケイスもアシュリーも、来客の態度に違和感を覚えた。
普通、ここを訪れる者は大体慌てているか、息を切らしている者が多い。あるいは、体調が優れず、声に元気がなかったりする。しかし、帽子を目深にかぶり、表情の読み取れないその人物にはそのどちらも当てはまらない。
その場合はトアやローザだったり、この村で付き合いの長い者の来訪であるケースが多いのだが、それにも当てはまらない。
――ただ、その声を耳にしたケイスはひどく動揺する。
「ど、どうして……」
なぜなら、ケイスはその声に聞き覚えがあった。
そして、その人物は――本来ならばこのような場所にいるはずのない人物だった。
「バ、バーノン兄さん……」
「久しぶりだな、ケイス」
それはケイスの兄であるバーノン――セリウス王国第一王子で、次期国王の最有力候補のバーノン王子だった。
「えぇっ!? ど、どうしたんです!?」
ケイスの言葉でバーノン王子の来訪を知ったアシュリーも動揺する。
「一体どうしたっていうの? 護衛の者もつけないで……」
「護衛は診療所の外に待機させている」
「だ、大丈夫なの?」
「少なくとも、私はこの村以上に安全な場所を他に知らないがな」
「……言われてみればそうね」
英雄である八極ふたりに聖剣使いのトア。
これだけでも相当な戦力だが、それ以外にも各国からすれば喉から手が出るほど欲しがる強者がひしめき合っている――それが要塞村だ。
しかし、一番近くにいるセリウス王国は、そんな彼らを自らの軍門に下るよう迫ったりはしていなかった。
それもすべては第一王子であるバーノンの指示によるもの。
最初は疑問に感じていた王国騎士団の関係者たちも、トアたち要塞村の面々による数々の武勇伝を耳にするたび、もはや自分たちの手には負えない存在であると認識を改めていた。それと同時に、要塞村の今後を村長トアに任せても大丈夫だと判断し、それからは要塞村の戦力を取り入れようという動きはなくなっていた。
では、バーノンは一体何のために要塞村へ来たのか。
その理由を説明するのに、バーノンは村長であるトアに会いたいとケイスへ相談を持ちかける。
パニックになるのを避けるため、わざわざ変装までしてこっそり村へ入ったまではよかったのだが、肝心のトアの居場所が分からないのだという。
「そういうことなら任せて。要塞村にある円卓の間にみんなを集めるわ」
「ありがとう、ケイス」
こうして、ケイスの呼びかけにより、村長トアをはじめとし、各種族の代表者たちが円卓の間へと集まった。
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