第457話 ドラゴン移送作戦【後編】
トアたちはローザの使い魔である巨大怪鳥ラルゲの背に乗り、アーストン高原へとやってきた。
黒いドラゴン――クロの治療を担当したという竜医だが、突然の呼び出しがあって入れ違いとなってしまった。ただ、名刺を置いていったので、いずれ機会を設けて顔を合わせることにした。
もし、今後クロが要塞村に住むとなったらシロと合わせて医者の存在は必要になってくるだろう。二匹の身に何が起きても、村医のケイスではどうしようもないからだ。
そう考えつつ、クロのいる場所へ向かい、久しぶりの再会を果たすと――トアは使者としてやってきたグウィン族の青年がしていた暗い表情の理由を知る。
「グルルゥ……」
ケガは完治している。
だが、クロは要塞村に住む守護竜シロに寄り添ってなんだか寂しそうな声をだしていた。表情もどこか悲しげというか、元気がないように映った。
「わふぅ……どうしたんでしょうか」
「何やら様子がおかしいですね」
同行したマフレナとフォルはクロの異変に気づいて心配そうに眺めている。これが、使者の表情の理由であった。
「実は数日前からあの調子で……」
困ったように語ったのはグウィン族の戦士サージ。
この地での生活に慣れたクロ――だが、やがて来る厳しい冬を思うと、このままアーストン高原にとどまるよりも要塞村に拠点を変えた方がいいだろうと考える。
これに関しては、要塞村側もグウィン族側も意見は一致していた。
しかし、当のクロ自身は、慣れてきた今の土地を離れることに抵抗があるらしい。
「こうなってくると……キーになるのは――」
トアの視線はクロに寄り添うシロへと向けられた。
それを受け、シロは力強く頷くと、何やらクロへ話しかけていく。
「こうなってくると、シロ様の説得にすべてがかかっていますね」
「そうだな……」
シロとクロの動向を見守るトアたち。
しばらくすると、
「…………」
シロはクロの首筋辺りに自分の顔をこすりつけ始めた。
「どうやら……決着がついたようじゃな」
その様子を見たローザが、安堵のため息を吐いた後に言う。
つまり、
「ロ、ローザさん、それじゃあ、クロは――」
「シロの説得を受け入れたのじゃろう。……案外、『夫婦にでもなろう』と口説いたかもしれんな」
「ま、まさか……」
「かっかっかっ! もしそうなら、村長であるお主は先を越された形になるな!」
「うっ……」
なんとなく視線をローザからそらすトア――が、外した視線の先にマフレナがいて、こっちとはバッチリ目が合った。
「「あっ……」」
視線だけでなく声も重なる。
直後、ふたりは顔を赤くしつつ互いにそっぽを向く。
「おやおやおやおや? どうかしましたか、マスター」
「うおっ!?」
今度はその先にフォルが待っていた。
「何やらマフレナ様と微妙な感じでしたが?」
「そ、そんなことはないよ」
「そうでしょうかぁ~?」
「近いな!」
ひと通りフォルからのいじりが終わったところで、巨大怪鳥ラルゲに支えられながら、クロは久しぶりに大空へと舞い上がった。ラルゲだけでなく、シロも同時に空を飛び、不安定なクロをすぐそばで支えた。
クロは暴れる素振りも見せず、箒で空を飛びながら先導するローザの言うことを聞いてゆっくりと要塞村へ向かって飛行する。
こうして、新たに大きな村民が加わった要塞村。
――しかし、この時はまだ誰も気づいていなかった。
ある大きな国家絡みの動きが、要塞村へ迫っていることを。
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