第459話 意外な来訪者【後編】

 要塞村円卓の間。

 主に要塞村に住む各種族の代表者が集い、村の運営にかかわる議題について話し合いが行われる場所――だが、今日は少々趣がことなっていた。

 そもそも、村長であるはずのトア自身が招集をかけられている立場であることからも、この事態が特殊であることが分かる。


 もちろん、他の種族代表者たちも、それは肌で感じていた。


「まったく、私は忙しいんだから、気安く呼び出さないでほしいものね!」

「そう言いながらも、『今日の議題は何かしらね』って興味津々だったではありませんか」

「メディーナ! うっさいわよ!」


 天使族のリラエルに魔族のメディーナが席に着き、これで全員が集まった。

 

「それで……俺たちを呼び出したのは誰なんだ?」


 さすがのトアも困惑していた。

 本来ならば、村で起きたことをまずトアへ報告し、その結果、代表者を集めた議論が必要だと判断すれば実行する――それが、いつもの流れだった。


 しかし、今回は違う。

 呼び出したのは、


「やあ、久しぶりだな――トア村長」

「!? バ、バーノン王子!?」


 そう。

 セリウス王国第一王子にして次期国王最有力候補のバーノンだったのだ。

 これには他の代表者たちも困惑。

 無理もない。

 いきなり国の王子――それも、次期国王候補が訪ねてきたのだから。


「今回は私がケイスを通して君たちをここへ集めた。どうか、私の話を聞いてほしい」


 いつも真面目で真剣なバーノン王子だが、今日は少し雰囲気が異なる。その秘密はすぐに解かれることとなった。


「単刀直入に言おう。実は今朝方――我が父、現セリウス王国の国王陛下が、王位を私に継承なさると告げた」

「「「「「えぇっ!?」」」」」


 現国王がバーノンへ王位を譲る。

 それはつまり、バーノンが王位継承最有力候補者から王位継承者へとグレードアップしたことを示していた。……というか、シンプルにバーノン王子が新たなセリウス王国の王様になるというわけだ。


 これはめでたいと沸き立つ村民たちを尻目に、ただひとり、ケイスはどこか心配そうな顔でバーノン王子に尋ねた。


「お父様……お体の調子が悪いのかしら?」


 生前に王位を継承するなど聞いたことない。

 となると、現継承者である国王にも何らかの異変があったのだろう。

 この質問に対し、


「安心しろ、ケイス。父上は健在だ。――しかし、すでにかなり高齢のため、体の変調が起きやすく、公務の途中辞退や不参加の状態が続いていたんだ。そこで、俺に王位を継承させ、自分は余生をのんびり過ごすことにした……というわけだ」

「それを聞けて安心したわ」


 ホッと胸を撫で下ろすケイス。

 案外、そっちの方が賢明な判断かもしれない。


「とりあえず、この件は明日の新聞で大々的に報じられる。それまでは内密にしてもらいたいのだが……ひとつ、お願いがあって来た」

「お願い?」

「そうだ。私にとっての初公務を、この要塞村で行われる、収穫祭の来賓としたいのだが……難しいだろうか?」

「そんなことはありません! 楽しみにしています!」


 トアは思わずバーノン王子――いや、バーノン王の手を握っていた。

 わざわざそれを伝えるために、馬車に乗ってこんな森の奥深くまで来たのだな。本当にありがたい限りだ。


 こうして、今年の収穫祭は、例年以上に大きな賑わいと、新しい衝撃を与えてくれることになりそうだ。

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