第456話 ドラゴン移送作戦【前編】
その日、要塞村にアーストン高原に住むグウィン族の使者と名乗る青年が訪れ、村長のトアへ面会を希望した。
顔見知りの使者から話を聞いたエステルは、早速彼を村長室へと案内する。
その用件とは、あの負傷した黒いドラゴン――クロの治療が終わったことを告げるものであった。そして、今やすっかり元気になり、そばについて励ましていた要塞村の守護竜シロだけでなく、グウィン族の人々に対しても懐くようになったというのだ。
「それは驚きですね」
「えぇ。最初はこちらを食い殺さんばかりの眼光で睨みつけられましたが、今や子どもたちを背に乗せても怒らないくらいには心を許しています」
また、失われた片方の翼については、執刀したドラゴン専門の医者――通称・竜医の見解からすると、再生治療を行えば、時間こそかかるものの元に戻るという。
「それもまた凄い……」
「かなり腕のいいお医者様のようですね」
村長室でトアとともに使者の話を聞いていたフォルが唸る。
「彼の実家は代々竜医をしているらしく、彼の他にも、別の大陸になりますが、姪っ子が竜医をしているという話を聞きました。しかも、その姪っ子のパートナーはドラゴンの言葉を理解し、会話をするそうです」
「それって……ジョブの能力なのかな?」
「可能性はありますね」
ドラゴンと会話ができる能力。
なんとも魅力的な響きに、すっかり心を奪われたトアだが、今はそれよりもクロについての今後が最優先だ。
「我らグウィン族では、あのドラゴンの世話は難しいと考えています」
高原で暮らす彼らの事情――それはズバリ食料絡みだろう。
標高の高い場所で生活をしているグウィン族。そのため、食料の確保は容易ではない。一応畑はあるが、トアたちのような平地に暮らす者たちが栽培する量と比較してしまうと、その差は歴然であった。
夏の今は比較的食料がある方ではあるが、これから秋を迎え、厳しい冬がやってくるとそうも言っていられない。自分たちの分を確保するので精一杯になるだろう。そのため、あれだけの巨体を誇るクロを高原で養い続けるのは限界があるということを告げに来たのだ。
むろん、トアもその事情については把握していた。
そのため、クロの怪我が治り次第、要塞村に移そうと考えていた。そこで、翼の再生治療を受けさせようと考えていたのだ。
そして――どうやら、その時期が訪れたようだ。
「問題は……移送手段だな」
翼が完治し、自力で飛べるようになるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。あまり向こうに長居させると、冬をしのぐための食料にまで手をつけなくてはならなくなる。それを避けるためにも、動きが出すのは早い方がいいだろう。
どうしたものかと悩んでいると、
「ワシの使い魔たちを送ろう」
そう提案したのは、たまたま村長室に居合わせたローザだった。
「ジャネットに頑丈なロープを用意してもらい、それで体を固定しながらワシの使い魔の巨鳥ラルゲたちに運ばせればよかろう」
「そうしてもらえると助かります」
トアは寛大な対応をしてくれたローザに頭を下げる。
これで万事問題は解決――と、思いきや、
「…………」
「? どうしたんだ? 表情が暗いぞ?」
「っ!? い、いえ……」
明らかに、使者を務める青年の様子がおかしい。
何か、問題でもあるのだろうか。
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