第455話 第四回要塞村収穫祭 ~運営計画編~
晩夏を迎えながらも、まだまだ暑い日が続いている。
だが、要塞村の村長であるトアには、この時期から取りかからなければいけないある重要なイベントがあった。
それは――
「今年の収穫祭はどうしようかなぁ……」
要塞村における秋の風物詩――収穫祭だった。
今年で四回目を迎える収穫祭だが、今回の祭りは例年以上の盛り上がりを見せることは明らかだった。
なぜなら、すでに人魚族の故郷であるカオム島から、長であるガイエルをはじめ、複数人の人魚族の来訪が、現在要塞村に住んでいる人魚のルーシーを通して知らされている。
さらに来客はこれだけにとどまらず、以前、子どもの姿になってしまったアネスに驚いていた水の精霊ビセンテを含むその他の精霊たち、さらに、トアたちを巻き込んで婚約にまつわる大騒動を起こしたアスロット家の面々なども参加を表明している。
去年に比べてさらに人が増すことが予想される要塞村収穫祭。
トアはその準備に追われていた。
人が多く集まるということは、それだけ安全面の配慮も欠かしてはならない。
一応、昨年同様、クレイブたちエノドアの自警団や、聖騎隊時代に世話になったジャン・ゴメスの所属するパーベル港湾警備隊も協力をしてくる手筈になっているが、果たしてどこまで対応できるか、少々不透明な部分はあった。
――しかし、
「安全問題? 神樹の魔力を一身に受ける聖剣使いのお主がいて、これ以上安全を求めろというのか?」
何かいいアイディアはないか、ローザに相談したトアだったが、返ってきた言葉がそれだった。
「それと、お主は肝心なことを忘れておる」
「な、なんでしょう?」
「この村にはワシとシャウナがおる。それに、八極である我らと大差ない実力を持った人魚族のガイエルや獣人族のライオネルも当日は目を光らせておるじゃろう」
なんとも頼もしい名前が出てきた。
「た、確かに……それだけいてくれたら、なんとかなりそうな気がしてきました!」
「四年も経つのに、お主の心配症は相変わらずじゃのぅ」
「あははは……でも、そうですね。四年目なんですよね」
トアがこの無血要塞ディーフォルに迷い込んでから、今の村になるまで四年かかったということ――ここへ来た当初はまだ十四歳だったトアも、今年で十八歳になる。
「初めて会った時は、まだまだ子どもっぽい言動が見られたが……今では立派な村長となったな、トアよ」
「そ、そうですか?」
「うむ。あの時、行き場を失った銀狼族や王虎族を保護し、共に暮らしていた姿を見て、信じてみようという気持ちになったが、どうやらワシの判断は間違っていなかったようじゃな」
「ローザさん……」
八極のひとりであるローザに手放しで褒められ、嬉しくなるトア。
同時に、「ちゃんとやれるだろうか」という不安のあった今年の収穫祭に対しても、前向きな考えを持てるようになった。
「ありがとうございます! 俺、やってみます!」
「その意気じゃ――が、危うくなったら遠慮なくワシらを頼るのじゃぞ?」
「はい!」
元気よく返事をして、トアはローザの部屋を出ていった。
「やれやれ……これと決めたら一直線に突き進むあの姿――どことなく、ヴィクトールに似ておるのぅ」
そう呟き、ローザは窓から空を見上げる。
この果てしなく広がる空の下で、自分に指輪をくれたあの男は今日も元気に暴れている。その姿を想像して、「ふふふ」とローザは笑った。
その時の姿は魔法で変化している子どもではなく、成長した大人の姿であった。
「まあ、トアはあいつと違って真面目だから悩んじゃうのよねぇ」
口調もいつも使っている年寄りっぽいものではなく、外見に合ったものだ。
大人の姿になったローザはゆっくりと椅子の背にもたれかかりながら、これまでのトアの成長ぶりを思い出すのだった。
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