第454話 霧の館の魔法使い⑧ 世界最高の魔法使い

 トアは事情を知っているカラム・ブレイクリーから詳しい話を聞くことができた。

 先ほど戦った――と言っていいのか分からないが、ともかく絡んできたアドリアナは《大魔導士》のジョブを持つカラムの最後の弟子だという。


 霧に包まれることで転移魔法を発動させるこの「霧の館」で暮らしながら、カラムは弟子のアドリアナに魔法を教えていた。


 ――が、その魔法というのはカラムが以前使っていた高度な攻撃魔法でなく、基礎基本となるものばかりであった。

 アドリアナは魔法を覚えるたびに自信をつけていき、やがて同じ魔法使いと戦いという気持ちが強まっていったという。

 中でもアドリアナがライバル視していたのが、世界を救った英雄のひとり――八極の枯れ泉の魔女ことローザ・バンテンシュタインであった。

 人々から世界最高の魔法使いと称されるローザをライバル視した理由として、カラムがローザを「唯一自分が勝てない魔法使い」と評価したからだった。

 尊敬する師匠のカラムを超えたい。

 その向上心はやがて大きく膨れ上がり、とうとうそれを実現しようという思考へと至ったのだった。



 アドリアナは師匠よりも強いというローザと戦おうとした――が、いきなりローザと戦うのは難しいと判断し、まずは彼女の弟子と戦うことを選んだ。

 

 その後、世界各地をこの館で旅をしながら、ローザとその弟子の情報を集めてきた。

 結果、ローザは現在要塞村という場所に住んでおり、そこの村長は強大な魔力を持つという噂を耳にする。


 そこでアドリアナはピンときた。

 この魔力を持った者こそがローザの弟子である、と。

 それから、カラムが魔力回復のため、長い眠りについた瞬間を利用し、要塞村近くへ館を移動させた。トアが好戦的な性格でないと調査済みだったアドリアナは、エノドアの子どもたちをさらい、戦うように仕向けたのだ。


 戦う理由は自分の強さを証明するため。

 ひいては――ローザよりも自分の師匠であるカラムの方が魔法使いとしての実力が上であると証明するためでもあった。




「まったく……これだけ大勢の人様に迷惑をかけて……」

「ごめんなざいぃ……」


 クマのぬいぐるみに魂を憑依させた師匠のカラムにこってり絞られたアドリアナは大号泣し、猛省。

 その間、トアは館の奥の部屋で眠っていた子どもたちを保護し、あとから合流したクレイブたちに身柄を預け、その日のうちにエノドアへと帰した。

 ちょうどそれが終わった頃に、カラムの説教も終了。


「大体ねぇ。ローザを見てごらんよ」

「えっ?」

「私にはあの子のように肉体を保ち続けることができず、魂だけを人形に宿し、かろうじてこの世界に存在しているんだ。その段階で、もう魔法使いとしての実力は段違いなのさ」

「そ、そういえば……私と見た目があまり変わらない!」

「……それには少々事情があってじゃなぁ」


 何やらまたひと悶着ありそうな気配だが、とりあえず一連の失踪事件は終わりを見たのだった。



  ◇◇◇



 子どもたちを解放し、大騒動を巻き起こしたことを謝罪したカラムとアドリアナの師弟は、最後に要塞村を訪れ、大宴会に参加した。


 その後、トアたちに見送られながら、ふたりは霧の館へと戻る。すると、館は深い霧に包まれ、やがてその姿を消してしまった。


「今度はどこへ旅立ったんですかね」

「さてのぅ……まあ、もし今度会う機会があるのなら、もう少しお淑やかに出てきてもらいたいものじゃな」


 トアの問いかけに対し、ローザは困ったように笑うのだった。

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