第442話 もうひとつの新名物

 猛暑が続く要塞村。

 そんな中、ケイスとジャネットによる共同開発で誕生したかき氷は大好評を呼び、それを求めて今日も大行列を生んでいた。


 しかし、ここで思わぬトラブルが発生する。

 想定以上にかき氷が好評となり、生産が追いつかなくなっていたのだ。


「かき氷の製造機については量産を想定していなかったので、同じ物を作るとするなら少し時間がかかりそうです」


 トアはジャネットからこのような報告を受けていた。


「うーん……プール開きまではまだ少しかかりそうだよな」

「現在清掃及び改装中ですからね」


 フォルからの報告にある通り、冬場はスケートリンクとして開放している要塞村プールを本来の役目を果たせるように現在ドワーフたちの手によって改装が進められている。

 だが、今年は例年よりもずっと早く猛暑日が来てしまったため、まだ準備が不完全だったのだ。


 ちなみに、臨時の策としてフォルを改造してかき氷を作れるようにしたらどうかとジャネットは提案したが、これにはひとつ問題があった。

それは、大人たちの夜の楽しみである《バー・フォートレス》において、フォルの内部に搭載された専用機で作るドリンク(酒)が同じくらい好評であり、かき氷を作りだすにはこれを取り外す必要があった。しかし、これに対し、シャウナをはじめとする大人組から「それだけは勘弁してほしい」と懇願されたため、頓挫したのだった。


「何か、他の手段で涼めたら――うん?」


 別の手を考えていたトアが要塞村農場の近くを通りかかると、麦わら帽子をかぶった少女を発見する。


「アネス?」

「パパ!」


 それは大地の精霊の女王アネスだった。


「どうかしたのかい?」

「今、リディスたちが新しい野菜を作っているんだって」

「新しい野菜?」


 現在、農場ではトマトやナスといった夏の野菜が食卓をにぎわせている。

 だが、アネスの話によると、それらとはまた違った野菜らしい。


「私の思い出の味なんだ……」

「思い出の味?」


 それを聞いてトアが思い出すのは、神樹ヴェキラの魔力を取り込もうとしていた最初の頃のアネスであった。

 その時のアネスはトアに敗れ、魔力を使い果たし、赤ん坊の姿となってこの要塞村で暮らしている。女王として振る舞っていた頃の記憶はなくなっているはずだが、どうやらその野菜の味だけは覚えているらしい。

 しかも、


「きっと、今のパパの悩みを解決してくれる野菜だと思うんだ」

「えっ? 俺の悩み?」

「そっ――みんなもこれを食べたら涼しめると思うんだ」

「そんな野菜があるなんて……」


 半信半疑のトア。

 そこへ、


「村長~、ちょうどいいところに来てくれたのだ~」


 リディスたちが件の野菜を持ってトアのもとへとやってくる。


「そ、それがさっきの話にあった野菜か」

「スイカというのだ~」

「聞いたことのない名前だ」

「主にジア大陸東部で食べられている野菜なのだ~」

「なるほど。……それにしても大きいね」

「こちらに食べやすくカットしたものがあるのだ~」


 あらかじめトアのリアクションを予想していたかのように準備のいいリディスたち大地の精霊。それはともかく、カットされたその野菜は、


「! 外見は緑だけど、中身は真っ赤なんだ」

「さあ、一口どうぞなのだ~」

「それじゃあ……」

「種があるから気をつけるのだ~」

「あっ、私も♪」


 トアはおっかなびっくりスイカを口に含む。

 それとは対照的に、味を知っているアネスは喜んで食べ進める。

 その感想は、


「!? 甘い!? それに瑞々しくて凄い水分だ!」

「冷やしておいたからよりおいしく感じるのだ~」

「確かに……これならみんなも喜んでくれるよ!」

「そう思ってすでに大量生産しておいたのだ~」

「さすが! ありがとう、リディス!」


 たまに野菜をモンスター化させることもあるが、そこはさすがに精霊族。同じ過ちは繰り返さない。



 こうして、大地の精霊たちが新たに栽培したスイカはたちまち大好評を博し、かき氷と並ぶ夏の目玉商品となったのだった。

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