第443話 今年も要塞村プールに行こう!

 ストリア大陸の猛暑日は、例年よりも早く来た。

 そのため、いつもは暑くなると開放される要塞村プールが遅れ――いよいよ本日から村民および一般へ開放される運びとなったのだ。


「朝から盛況だなぁ」

「みなさん、この時を待っていたんですよ」


 にぎやかな要塞村プールを眺めるトアとフォル。

 特に、ルーシーをはじめとする人魚族は大はしゃぎだった。

 連日続いた猛暑日で一番ぐったりしていたのは何を隠そう彼女たちだったのだ。


 もちろん、エステルやジャネット、クラーラにマフレナも新しい水着を身にまとい、プールで遊んでいる。


「行かなくてよろしいのですか?」

「もうちょっと様子を見てからで――」

「はいはい。そういうのは私に任せて、トア村長は泳いできなさい」


 そう言って、トアの背中を押したのは市場責任者のナタリーだった。


「ナ、ナタリーさん!?」

「スイカ畑やらかき氷やら、あなたも最近ずっと働きっぱなしでしょ?」

「そ、それは――」

「村長だからって理由は通らないわよ? ほら、行ってきなさい。女の子たちを待たせるのは男としていただけないわよ?」

「えっ?」


 見ると、エステルたち四人の視線がジッとトアに向けられていた。

 彼女たちは一言も発していないが、「まだ来ないの?」と視線で抗議しているようにトアの目には映った。


「……じゃ、じゃあ」

「はい。楽しんできなさい」

「僕はナタリーさんのお手伝いをしますね」

「えぇ。頼りにしているわよ、フォル」


 結局、トアはエステルたちと合流。

 要塞村プールを心から満喫していた。


 ――と、


「うぅ……なんて暑さなの……」


 水辺でボール遊びをしていた際、転がっていったボールを探しに来たトアは、そこでぐったりしているひとりの少女を発見する。


「? リラエル?」


 そこにいたのは天使族のリラエルだった。


「なんだって地上はこんなに暑いのよ……天界はここまでじゃなかったわよ……」

「プールに入れば涼しくなるぞ?」

「羽が濡れるからパス。もう……メディーナはどこに行ったのよ……人を誘っておいて勝手にどっか行っちゃうなんて……」


 愚痴を吐くリラエル。

 どうしたものかと困っているトアのもとへ、スイカを手にした魔人族のメディーナがやってきた。


「リラエル殿、ご所望されていたスイカをお持ちしましたよ!」

「あぁ……」


 スイカを受け取ったリラエルはそれをひと口食べると、


「……何これ、うっま」


 静かにそう呟いた。


「暑いときには暑いときの過ごし方がある――この世界に住む種族が、少しうらやましく思えますな」

「魔界も季節なんてないものね」

「えぇ。だから、季節に合った生活のできるこの世界はとても素敵だと思うであります!」

「……まあ、悪くはないかもね」


 メディーナとのやりとりを経て、リラエルの考えにも変化が生まれたようだ。


「どうしたの、トア」

「あっ、今行くよ」


 クラーラに呼ばれて、トアはボールを片手に戻っていく。

 彼女たちにとっても、この要塞村での生活が思い出深いものになっていってくれたらいいな――心からそう思うトアだった。

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