第440話 暑い夏を乗り切る方法
要塞村にもいよいよ夏到来。
日に日に気温は上昇し、そのうだるような暑さに体調を崩す者も出始めていた。
「高気温の中で長時間作業をいたしますと体調を崩しやすくなりますので、みなさまご注意くださいませ」
朝からフォルが音声を最大量にして要塞村市場にやってきた客や商人に呼びかけており、また、村民たちの手によって打ち水がされるなど、対策が施されていた。
「それにしたって……こう暑くちゃな」
二の腕で汗をぬぐいながら、トアは町の様子を見て回る。
この暑さのせいか、心なしかいつもより活気が少ないように感じた。
他に何か、涼を感じられるようなものはないか。
トアが頭を巡らせていると、
「トア村長!」
「トアさん!」
ふたりの人物がトアを訪ねてきた。
「? ケイスさんにジャネット?」
ひとりは村医として働く元セリウス王国第二王子のケイス。もうひとりはドワーフ族のジャネットであった。
「珍しい組み合わせだね。何かあったの?」
「遂に完成したのよ! この暑さを凌ぐ画期的なアイテムが!」
「えっ?」
「昨年、かき氷を作ったのを覚えていますか?」
「かき氷? ――ああ、あったね」
昨年、要塞村で大いに盛り上がったかき氷。
その証拠に、ジャネットがその言葉を口にした途端、村民や商人たちが「何事だ?」と大勢集まってきていた。
「今回はそんなかき氷をよりお手軽に楽しめるアイテムを作ったんです」
「お手軽に?」
「はい。なんでも、以前それを見たことがあるというケイスさんの協力を得て、作りました」
自信満々にフンと鼻を鳴らすジャネット。
「い、一体どんなものなんだ?」
「まずは……これを使うわ」
ケイスが差し出したのは――氷だった。
要塞村では神樹ヴェキラの浸かる地底湖の水を生活に利用しているが、それを凍らせた特注のものである。
周囲からざわめきが起こる中、ケイスはジャネットが作ったという不思議な形状のアイテムに氷をセット。それから、ジャネットがアイテム上部にあるハンドルを回していくと――シャリシャリという小気味よい音とともに氷が削られ、下に置かれた皿へと盛られていく。
「こ、これは!?」
「まだあたしが王家にいた頃、ヒノモトから来た商人がこれでかき氷を作ってみんなに振る舞ったのを思い出したの」
一定量の氷が皿に盛られると、ケイスはそれを取り出して要塞村牧場で育った牛から作った練乳をかけてトアへと渡す。
「で、では……」
恐る恐る完成したかき氷を口に含むと――
「うっまっ! ていうか冷たっ!?」
うまくて冷たい――今の要塞村が求める二大ワードを叶えるだけでなく、誰でもお手軽に自分好みの量を調節できる。
この優れものに、村中が沸き上がった。
「氷にかけるのは他にもフルーツなどをベースにしたものもあるぞ」
「お、俺にもくれ!」
「私にも!」
トアの感想を耳にした人々は一斉にかき氷を求めた。
この状況にハイタッチで喜び合うケイスとジャネット。
こうして、要塞村の夏の名物は新たなパワーアップを果たしたのだった。
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