第434話 マフレナの異変④ マフレナ、夜を駆ける

「あなた……一体何者!?」


 マフレナの異変に気づいたクラーラが、愛用の大剣を構える。

 目の前にいるのはマフレナであってマフレナではない――エノドアでのポーカー勝負の際に変貌したマフレナを目の当たりにしているクラーラには、それが分かった。だからこその臨戦態勢だった。

 ――が、クラーラを挟むように立つエステルとジャネットは未だに信じられなかった。

 窓から差し込む月明かりに照らされて輝く銀髪に、同性から見ても思わず釘付けとなってしまうボディライン――まさしくマフレナだ。

 しかし、今起きている現象をマフレナが引き起こしているとは思えなかった。

あの純粋無垢なマフレナが、夜中にトアの部屋へ潜り込むなど。

 ましてや、そのマフレナが中身だけ別人だなんて。


「ふふふ……この子たちが――」


 妖しげな笑みを浮かべていたマフレナだが、その表情が一瞬にして険しくなり、その場から咄嗟に退いた。

 直後、マフレナを捕まえようとする太い腕が――ジンだ。


「娘から出て行ってもらおうか!」

 

 怒りに打ち震えるジン。

 これまでに見たことがない俊敏な動き。トアやクラーラでさえ、そのスピードを捉えることはできなかった。

 そんなジンを見て、マフレナは――


「……変わらないわね」


 そう言って、ニコリと微笑んだ。


「っ!?」


 それを見たジンの動きがピタリと止まった。


「ジンさん!?」

「――っ!」


 トアが叫ぶと、ハッと我に返ったジン。

 だが、すでに遅かった。


「悪いけど……しばらくこの子を借りるわね♪」


 マフレナは振り返ると、窓を開け放ってそこから外へと飛びだした。


「「「「「なっ!?」」」」」


 予想外の行動に驚いたトアたちは、急いで窓から外の様子を探る。しかし、身軽なマフレナはあっという間に夜の闇の中へと消えていった。


「くっ!? 見失った!?」

「トア村長! 私とジン殿で一帯の探索に向かう!」

「俺も行きます!」

「私も行くわ!」

「よし! エステルとジャネットはローザさんに知らせてくれ!」

「分かったわ!」

「はい!」


 闇夜を疾走するマフレナを捕まえるため、トア、クラーラ、シャウナ、ジンの四人は先行して捜索へと向かった。




 深夜の屍の森。

 勢いのままに飛びだしたはいいが、光源は月明かりだけが頼り。昼間よりもずっと視界が悪くなっているため、マフレナの姿を追うことはできなかった。


「まいったわね……これじゃあ捜しようがないわ」

「でも、このままだとマフレナが……」


 トアとクラーラが途方に暮れていると――突風が吹く。

 その風に乗って、強力な魔力がふたりのもとへもたらされた。

 ――それは、以前、浮遊大陸で感じた魔力と酷似していた。


「「!?」」


 ふたりは魔力を感じ取った方角へと視線を向ける。

 そこには、夜の闇に紛れるようにして、ひとりの女性が立っていた。

 その女性とは――


「ま、まさか……」

「テスタロッサさん!?」

「久しぶりね」


 トアとローザの前に現れたのは、八極のひとり――《死境のテスタロッサ》だった。

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