第433話 マフレナの異変③ 深夜の来訪者
マフレナの異変について詳しい情報を得られないまま夜を迎えた。
戻ってからも、マフレナに変わった様子が見られなかったため、トアはローザたちと話し合い、一旦見守る方向で意見をまとめた。
夕食を終え、要塞の一角にある村長室。
「それじゃあ、今日はそろそろ寝ましょうか」
「そうね」
エステルとクラーラがそう言うと、発光石の光を頼りに読書をしていたジャネットは本を閉じて棚に返し、外で星空を眺めていたマフレナも室内に戻って来た。
同じく村長室で暮らしている魔虫族のハンナは、すでにドワーフ族のゴランが作ったベビーベッドの中で寝息を立てている。以前は大地の精霊女王アネスもここで暮らしていたが、最近になって一人暮らしをしたいと言って、自室を与えられていた。
五人はそれぞれの寝室へと向かい、いつものようにベッドへと横になる。
――それから数時間後。
「うぅ……?」
深夜。
トアは何かの気配を感じて目覚めた。
「な、何だ……?」
全身に違和感を覚える。
まるで、物凄いパワーを持った人に無理やり組み伏せられているような感覚だ。
「これが噂に聞く……金縛りってヤツか?」
そう呟いてから、トアは違和感の正体を探ろうと目を開けた。
すると、眼前には信じられない光景が広がっていた。
「!? マ、マフレナ!?」
トアの両手をガッチリと掴んで抑え込んでいたのは金縛りなどではなく――寝間着姿のマフレナだった。
「ふふふ……」
普段のマフレナならば絶対しない蠱惑的な微笑みを浮かべていて、怪しく光る青い瞳がトアをジッと見つめている。
「ど、どうしたんだ、マフレナ!?」
「あら、女が深夜に男の部屋を訪ねる――狙いはひとつしかないと思うけど?」
これもまた、いつものマフレナであれば絶対に言わないようなセリフだ。
明らかに、さっきまでのんびりと星を眺めていたマフレナとは違う。そう――「例の異変」に陥った状態のマフレナだ。
「マフレナ! 正気に戻るんだ!」
「正気? ……そうね。するべきことをしたら、元に戻るかもね」
そう言うと、マフレナはゆっくりと自身の服に手をかけた。
――その時だ。
「そこまでにしてもらおうか!」
どこからともなく、何者かの叫び声が室内に響き渡る。
するとその直後、トアの部屋にあるクローゼットが豪快に開かれる。
「娘の体を乗っ取ってよからぬことを企むとは……許しがたい!」
「大変面白い――否、厄介な状況になっているようだね。手を貸そう」
現れたのはマフレナの父ジンと八極のシャウナだった。
「お、おふたりとも、ずっとそこに隠れていたんですか!?」
「人目の多いところでは本性を隠しているようだったので、黒幕をおびき出す必要があったのだよ、トア村長」
「こうもうまく運ぶとは思わなかったけどね」
「そのために夕食後ずっとクローゼットに……」
執念というかなんというか。
トアが驚いていると、さらに事態をややこしくする乱入者たちがやってくる。
「ちょっと! さっきの叫び声はなんなの!?」
「ジンさんとシャウナさんの声だったような……」
「って! マフレナ!? 何してるの!?」
クラーラ、ジャネット、エステルの三人も異常を察して部屋にやってきた。
「あらあら……収拾がつかなくなってきたわね」
その状況を前に、マフレナ(偽?)は困ったように笑うのだった。
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