第435話 マフレナの異変⑤ 異変の真相

「元気そうで何よりだわ」


 相変わらずの平坦口調で、トアとクラーラへ声をかける八極のテスタロッサ。

 今は同じ八極であるヴィクトールやアバランチと共に、堕天使ジェダの行方を調査するため世界を飛び回っているはず。

 そのテスタロッサが屍の森にいる――その事実から、よからぬ事態が発生しているのだとふたりはすぐに察した。

 しかもそれは、行方をくらましているマフレナ絡みであるということも。


「その顔つきは……もう大体のことは察知できたようね」

「……マフレナのことですね」


 トアが尋ねると、テスタロッサは静かに頷いた。


「教えてください、テスタロッサさん! マフレナに一体何があったんですか!?」

「落ち着きなさい、クラーラ」

 

 詰め寄るクラーラに対し、優しく頭を撫でながら落ち着かせるテスタロッサ。その手つきは非常に慣れているように映った。きっと、オーレムの森で剣術を教えていた頃もこうしていたのだろう。


 しばらくして、クラーラの息が整ってきたことを確認したテスタロッサは、マフレナの件について語り始めた。


「私はとある村の村長から依頼を受けて、村の外れに居着いているという霊魂を鎮めようと向かったの。――それはある獣人族の霊魂だったわ」

「「獣人族?」」

「そう。……銀狼族よ」

「「!?」」


 その話を聞いた時、トアは銀狼族が要塞村――になる前の無血要塞ディーフォルへやってきた経緯を思い出していた。

 銀狼族は元々住んでいた土地が火山噴火の影響で住めなくなり、リーダーのジンが生き残った者たちを引き連れて旅を続けていた。安住の地を求めていた彼らがたどり着いた場所こそディーフォルだったのだ。


 その火山噴火で、マフレナは母親を亡くしていた。

 それについてはトアだけでなく、クラーラもエステルもジャネットも父親であるジンから教えてもらっている。


――ゆえに、ふたりはテスタロッサの語った銀狼族の霊について心当たりがあったのだ。


「まさか……その銀狼族の霊って……」

「名前はユニア。マフレナの母親よ」

「「なっ!?」」


 予想はしていたが、まさか本当に母親だったとはと驚くふたり。


「じゃ、じゃあ、もしかして、そのユニアさんの霊が――」

「マフレナに取りついている可能性があるわ」

「どうりで……それなら、ジンさんの反応も納得できる」 


 恐らく、ジンは気づいたのだろう。

 亡くなった妻とそっくりな言動――それこそ、長く一緒にいた夫なピンとくるはずだ。


「ほ、本当に……?」

「きっとそうだよ。俺だって、仮にクラーラが妻でジンさんと同じ状況になったら、すぐに気づけると思う」

「!? わ、私も! トアが夫ならすぐに気づくわ!」

「「…………」」

「盛り上がっているところ悪いけど、あまり悠長に構えていられないの」


 言い終えてから赤面しているトアとクラーラへ、テスタロッサはいつも通りのテンションで話しかけた。


「浮遊大陸でマフレナを見かけた時、誰かの面影があるとは思っていたけど――まさか母親があのユニアだったなんて……」

「えっ!? テスタロッサさんはマフレナのお母さんを知っているんですか!?」


 トアが驚きながら尋ねると、テスタロッサは再び静かに頷く。

 マフレナの母――ユニア。

 果たして、どんな人物だったのだろうか。

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