第430話 その強運は誰のために【後編】
流れのギャンブラー・バリーをエノドアから追い出すため、クラーラとマフレナのコンビはポーカー対決をすることになった。
「――って、勢いに任せて勝負を挑んだところまではよかったけど……シャウナさんに教えてもらいながらみんなで楽しみながらやったことくらいしかないのよねぇ」
「わふぅ……私もです」
さっきまでの勢いはどこへやら。
経験不足のふたりが、どうやって百戦錬磨のバリーに勝つのか。
その策は――まったくなかった。
と、その時、
「……ねぇ」
「? 何よ、マフレナ。いい考えでもあるの?」
「えぇ。ここは私に任せて」
「へっ?」
突然、マフレナの口調や雰囲気が変わった。
純粋無垢で天真爛漫。
そんないつものマフレナとは違ってどこか大人びたというか、落ち着いた感じがする。
クラーラがその変わりように驚いている間に、マフレナはバリーの待つテーブルへ。
「ほう、俺の相手は犬耳のお嬢ちゃんか」
「お手柔らかに頼むわね」
席に着いたマフレナは、やっぱりどこかいつもと様子が違う。
「マフレナ……」
「なんだぁ? マフレナのヤツ、いつもとまるで別人じゃねぇか」
「うわっ!? エドガー!?」
回復したエドガーが勝負の行方を見届けるため、店内へとやってきていた。
「何か悪いモノでも食ったか?」
「私にも分からないのよ……さっきまではいつも通りだったのに……」
困惑するふたりを尻目に、テーブルでは早くもふたりの勝負が始まった。
互いに山からトランプを抜いていき、先手はバリーから。
「初手にしてはなかなかいいのが来たぜ」
そう言って、手にしていたトランプをテーブルへと放る。
その役は、
「フラッシュ!?」
「……初っ端から飛ばしてきたわね」
ギャンブルで世界を渡っているだけのことはある。
バリーの手は「ハート」が五枚。
「こりゃまずいぞ……」
「マフレナ……」
ふたりだけでなく、多くの敗れていった者たちが見守る中、マフレナの手は――
「残念だったわね♪ ――フルハウスよ♪」
「何っ!?」
思わず立ち上がるバリー。
焦る彼とは対照的に、周囲からは歓声が沸いた。
「か、勝ちやがった……」
「す、凄い……」
これにはエドガーとクラーラも呆然自失――が、対戦相手であるバリーは納得がいかないらしく、「もうひと勝負だ!」とマフレナに再戦を申し入れた。
「望むところよ」
受けてたつマフレナ。
こうして始まった第二戦。
ここでも、バリーは強運を見せつける。
「どうだ! ストレート・フラッシュだ!」
トランプをテーブルに叩きつけるバリー。
その手はポーカーにおいて二番目に強い役だった。
――しかし、
「ふふふ……」
勝利を確信するバリーをあざ笑うマフレナ。
つまり、
「またまた残念♪ ――こっちはロイヤル・ストレート・フラッシュよ♪」
「バカなぁ!?」
崩れ落ちるバリー。
この瞬間、マフレナの完全勝利が決まり、ギャラリーは大盛り上がり。
もちろん、クラーラとエドガーもマフレナの勝利を喜んだ――が、それ以上に、ふたりはマフレナの変貌ぶりに驚いている。
今のマフレナはマフレナではない。
口に出さなくても、ふたりの考えは見事に一致していたのだった。
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