第429話 その強運は誰のために【前編】
「う~ん……いい天気ねぇ」
「わふっ! ホントですね!」
この日、クラーラとマフレナはエノドアにあるエルフのケーキ屋を目指していた。
店長を務めていたメリッサが産休のためオーレムの森に戻って以降、双子の妹のルイスを中心にエルフたちが協力をして店を盛り立ており、今日は新しい新作ケーキの試食を依頼されていたのだ。
ふたりは話をしながらエノドアの町を歩いていく――と、目の前に近くの建物のドアを派手に突き破り、ひとりの男が転がって来た。その男とは、
「エ、エドガー!?」
「わふっ!? どうしたんですか!?」
エノドア自警団のひとりで、トアやエステルとは聖騎隊で同期だったエドガーだ。
仰向けになって倒れているエドガーは、疲れ切った表情で「ぐぅ……」と呻く。すると、そこへ近づいてくる人影が。
「くくく、大口を叩いていた割にこの程度か」
見下すように笑っている男――幅広いつばの帽子をかぶり、薄汚れたコートを羽織る中年の男。どうやら、エドガーはこの男にやられたらしい。
しかし、腑に落ちない点がある。
エドガーは相当な実力者だ。
聖剣を持つトアや《大魔導士》のジョブを持つエステルほどではないが、騎士団へ入ればすぐにでも分団長クラスにはなれる力がある。
事情は知れないが、そのエドガーを相手にしてあの余裕たっぷりな態度――出で立ちからは想像できないが、彼もまた底知れぬ実力を秘めた人物らしい。
「あんたがエドガーを……」
「おっと、そいつの知り合いか? 悪いが、ふっかけてきたのはそっちの方だ。俺は降りかかった火の粉を払っただけに過ぎない」
「わふっ!? エドガーくんがケンカを!?」
「ケンカ? なんの話だ?」
「とぼけるんじゃないわよ! エドガーにこんなケガを――あれ?」
そこで、クラーラは気づいた。
ドアを突き破って転がって来たエドガーであるが、その体に傷はひとつもなかった。
「ど、どういうことなの?」
「そいつとの勝負は――これでつけたのさ」
男が手にしていたのはトランプだった。
「ト、トランプ?」
「そうだ。そいつは俺とポーカーの勝負をして負けたんだ」
「ポーカーって……まさか、あんた――」
「そう! このバリー様は生粋のギャンブラーだ!」
男は帽子を放り投げると、自身を指差して高らかにそう宣言した。
「俺は生まれてこの方一度として労働したことがない! これまでずっと、ギャンブルのみで生計を立ててきたんだ!」
「ただのろくでなしじゃない」
「なんだと!?」
ため息交じりに言い放つクラーラに対し、男は怒りをあらわにする。
「ふん! おまえたちがなんと言おうが、俺はこの町でも未だ無敗……誰もこの俺を止められんのだ!」
「無敗って……まさか!」
クラーラはギャンブル男――バリーが出てきた建物の中へと入っていった。そこは酒場で、よく鉱夫たちが仕事終わりに訪れる店だ。
その店内は、バリーに敗れた男たちで溢れかえっていた。
「なるほど……エドガーはこの人たちの仇を取るためにあんたとポーカー勝負をしたってわけね」
「そうだ。その結果があのざまというわけさ」
店内に倒れている男たちを見回して高笑いをするバリー。
そんな彼を見て、
「……クラーラちゃん」
「……マフレナ」
ふたりはアイコンタクトで互いの考えが一致していることを確信する。
そして、
「ちょっと!」
「なんだ?」
「次の相手は――私たちよ!」
ギャンブラー・バリーに勝負を挑んだ。
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