第427話 悩み事はなんですか?【後編】

 鉄道調査団の団長を務めるスタンレーの悩み。

 それは、バーノン王子が構想を練った、新たな都市計画が原因だった。

 バーノン王子はその新しい都市の町長としてスタンレーを指名するらしく、当のスタンレーはその重圧に体調を崩していたようだった。

 そこで、ケイスが助っ人に呼んだのが、


「お、俺で解決できますかね?」


 要塞村で村長を務めるトアだった。


「適任だと思うわよ?」

「私も同意します」


 本当に自分で大丈夫なのかと不安げなトアだが、ケイスとラウラからは太鼓判をもらった。


「確かに、バーノン兄さんの構想では、国内でも最大級の都市になるということだけど……正直、この要塞村ほどのインパクトはないと思うのよねぇ」


 ケイスの言葉に、ラウラは無言で頷く。


「そ、そうなんですか?」

「トア村長には自覚がないようだけど、実際とんでもないのよ?」

「まあ……それまで人間とほとんど関わりのなかったエルフ族に銀狼族に王虎族、さらには精霊やモンスター、帝国の最終兵器に幽霊に魔人族――」

「最近だと人魚族や天使まで巻き込んじゃって……それでもなんのトラブルもなく平穏無事に暮らしているなんて奇跡に近いわ」

「ですが、それを可能にしているのは紛れなくトア村長の力です」

「《要塞職人》の力を考慮しなくても、あなたは立派な長よ」

「そ、そんな……」


 ふたりからベタ褒めをされてたじろぐトア。

 一方、肝心のスタンレーは診療所の端っこで膝を抱えていた。


「……重症ですね」

「ここまでプレッシャーに弱いタイプだとは思わなかったわ」

「いえ、団長は重圧に強い方です。ただ、今回の案件はこれまでとは比にならないほど強烈なものでして」

「バーノン兄さんは昔からスタンレーの力を買っていたものね……今回の鉄道調査団のトップに任命したのもその表れでしょうし」


 バーノンからすれば、「きっとスタンレーならば見事に大役をこなしてくれる」と確信しているからこその指名だろう。

 実際、これまでスタンレーはあらゆる命令を着実に遂行していった。誰もが認める実績を積んでいたのだ。

 

「えぇっと……スタンレーさん」


 トアが声をかけると、「ふぁい」という弱々しい応答が帰って来た。いつもの自信に溢れたスタンレーの姿とは程遠い。

 

「大丈夫ですよ。きっとスタンレーさんなら立派な町長になれますって」

「し、しかし……」

「何か困ったことがあったら俺たち要塞村がお手伝いしますから」

「トア村長……」


 優しい口調と明るい笑み。

 トアの態度に心を打たれたスタンレーはスッと顔を上げると、そのままゆっくりと立ち上がった。


「そうだな。うん。せっかくバーノン様がご指名してくださったんだ。それに報いなければ男が廃る!」

「その意気ですよ!」


 トアからの激励を受けたスタンレーはすっかり立ち直る。

 そこへ、

 

「おや? もう悩みは解決されたようですね」


 フォルが様子を見にやってくる。

 

「トア村長のおかげで、ヤル気が漲ってきたところだよ」

「それは何より。では、僕の方からもひとつアドバイスを」

「お? 帝国仕込みのアドバイスかい?」

「えぇ」


 フォルはわざとらしく「こほん」と咳払いをしてからスタンレーへ助言を送る。


「我らが偉大なるマスターのような長になるためには――最低でも四人は奥さんを娶らないといけません」

「えっ!? よ、四人!?」


 明らかに適当なフォルのアドバイスを聞き、衝撃を受けるスタンレー。

 ――が、次の瞬間、背後から話を聞いていたクラーラの飛び蹴りが炸裂し、頭(兜)が吹っ飛ばされる。

 その後、さっきのはフォルの冗談だとトアは説明をするが、それを後ろで聞いていたケイスとラウラは、


『あながち間違いじゃないかもしれない』


 と、思うのであった。

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