第426話 悩み事はなんですか?【前編】
要塞村の診療所。
セリウス王国の元第二王子であるケイスが運営するそこは、患者のほとんどが遊び回っていて怪我をした子どもたちであった。
時折、予期せぬトラブルなどで大人が運ばれてくることもあるが、大体は軽傷でその日のうちに帰っていく。
しかし、この日は珍しい患者が訪ねてきた。
「よろしいでしょうか」
「はいはーい――って、ラウラ?」
「ご無沙汰しております、ケイス王子」
丁寧な口調で診療所にやって来たのは、屍の森で鉄道調査を行っているチームの女性メンバー・ラウラだった。
「やーねー、あたしはもう王子じゃないのよ?」
「相変わらずですね」
思わず苦笑いを浮かべるラウラ。
彼女は知っているのだ。
この要塞村に来る前のケイス――つまり、まだ王子として自分を偽っていた頃のケイスを。
当時から、ケイスは優秀だった。
第一王子のバーノンと王位継承の座を争っていた――ように見えていたが、それはあくまでもポーズで、ケイスには王位を継承する気などさらさらなかったのだ。
そんな時、ケイスは要塞村の噂を聞きつけ、当時側近だったタマキにその様子を探らせた。そのタマキからの報告を受けて、ケイスは王家に別れを告げ、移住を決意したのである。
タマキの報告通り、要塞村はケイスにとってまさに理想郷であった。
要塞村を守るために、トアたちを王家に紹介する橋渡し的な役割を買って出て、城の舞踏会へ行く際にアドバイスを送るなど、今や医師というポジションを抜きにしても要塞村に欠かせない人物となっている。
「で、今日はどうしたの? 美容相談? もしくは恋の悩み?」
「どちらも違います。というか、患者は私ではありません」
相変わらず声に抑揚がなく、淡々と無表情で語っていくラウラ。
「あら、そうなの? じゃあ、患者は――もしかして……」
「はい。その『もしかして』です」
ケイスの予感は的中。
慌てて診療所の外に出ると、
「ス、スタンレー……」
鉄道調査団の責任者であるスタンレーが、診療所の外壁にもたれかかっていた。
表情に覇気はなく、目も虚ろだ。
「一体何があったの……?」
「……ケイス王子は、バーノン王子の新しい計画をご存知ですか?」
「一応、ファグナス家の当主から聞いてはいるわ。新しい都市を造るってヤツでしょ?」
「その通りです」
「まさか、それが原因?」
ケイスが訪ねると、ラウラは静かに頷いた。
つまり、
「スタンレー団長は極度のプレッシャーに押しつぶされようとしているのです」
「そのようね。でも、そうなるとあたしにとって専門外の知識が必要ね」
普段、要塞村の村民からいろいろと相談(主に女子相手)されるケイスだが、スタンレーの場合はこれまでとは毛色が違いすぎる。
もっとも適任なのはそうした経験豊富なシスター・メリンカだが、安易に決定するよりもより詳細な情報を聞きだすことにした。
「彼の悩みについて、もうちょっと聞かせてくれない?」
「分かりました」
ケイスへ詳しい説明をするラウラ。
最初から最後まで聞き入ったケイスの出した答えは――
「安心して頂戴。私以上にピッタリの相談相手がいるわ」
満面の笑みを浮かべながら、ケイスはそう答えた。
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