第423話 オーレムの森・新たな命④ ガールズトーク
トアがアルディの家へ向かった頃、オーレムの森の診療所は未だに赤ちゃんエルフの話題で盛り上がっていた。
「要塞村には戻ってくるんでしょ?」
「はい。いろんな種族が協力し合って暮らしている要塞村で生活することで、きっと視野の広い子に育つと思うんです」
それは、どこか実感がこもっているように聞こえた。
クラーラが当時の長の家を破壊し、百年間の追放処分を下されて、さまよい歩いた末にたどり着いた無血要塞・ディーフォル。そこでトアに出会い、復活したフォルや安息の地を探して旅をしていた銀狼族や王虎族――さまざまな種族が共同生活をするようになって、村はどんどん発展していった。
それはやがて、オーレムの森にも大きな影響を及ぼすことになる。
「確かに……あんなにたくさんの種族が一緒に暮らしている村なんて、世界でもきっとあそこくらいでしょうね」
ちょっと呆れたように言って、クラーラは笑った。
そのクラーラはチラッと視線を横へとずらす。
そこにはふたりの女性がいた。
ひとりは英雄・八極のひとりに数えられる世界最高の魔法使いことローザ・バンテンシュタイン。
もうひとりは同じく八極のひとりで黒蛇のシャウナ。
このふたりの存在も、オーレムの森のエルフたちにとって大きかっただろう。
何せ、新しい長であるアルディとは、ザンジール帝国との間で起きた大戦で共に戦った、いわゆる戦友同士だったからだ。
ザンジール帝国がエルフ族を奴隷として扱っていたことが原因で、人間との関係を遮断する森が多い中、アルディは真の平和を手にするため、人間たちが主戦力を務める連合軍に数名の同志を引き連れて参加した。
その背景には一族の未来があった。
終戦後、エルフ族だけでの生活には限界が来ると予見していたアルディは、頭の固い旧体制の老人たちを説得するためにも、人間社会をもっと理解する必要があると考えていた。
結果として、アルディが人間の社会を理解するよりも先に、娘のクラーラが人間であるトアといい感じになったので、オーレムの森は他の森に先駆けて他種族との積極的な交流を果たすことに成功したのだった。
「やれやれ、みんなすっかり赤ちゃんの虜になってしまったようだ」
「まったくじゃな」
診療所でティータイムを始める八極ふたり。
話題はいつしかエルフたちからエステルたちへと変わっていた。
「しかし、こうなってくると次は誰が妊娠するのか……そっちの方へ興味が湧かないかい?」
「気持ちは分からんでもないがのぅ……あの四人にはまだ期待できんじゃろ」
メリッサと赤ちゃんトークで盛り上がっているクラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットの四人。ローザとシャウナは、その四人に聞かれないよう小声で話し合っていた。
現在はトアと同じ部屋で共同生活を送る彼女たちだが、メリッサとセドリックのような浮いた話は聞かれない。
「彼女たちを同室にしたのは……ミステイクだったかもしれないね」
「結ばれた友情がこちらの想定以上に分厚かったせいか、誰も抜けがけしようとは思っておらんようじゃからのぅ」
「まあ、現状を打開しようと思うならトア村長が四人同時に相手をして――」
「生々しい話はよさんか……」
「冗談だよ」
そう誤魔化すシャウナだが、目は本気だった。
いずれにせよ、今回のメリッサ出産という出来事が、トアたちの関係に少なからず影響を及ぼすのは間違いないだろう。
これを機に四人のうち誰かが妊娠――なんてことはなさそうだが、現実に起こるのはそう遠くない未来だろうとふたりは確信していた。
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