第422話 オーレムの森・新たな命③ 次の世代へ
メリッサとセドリックの間に生まれた第一子。
その赤ん坊と対面したトアたちだが、それから間もなく、クラーラの父であるアルディに呼び出しを受けていた。
「ここだな」
以前も訪れたアルディの家――つまり、クラーラの実家。
ノックをし、返事を受けてから、トアは家の中へ。
「急に呼び出してすまないな、トア村長」
「いえ」
キリッと真面目な表情でトアを待ち受けるアルディ。
いつもは娘のクラーラ絡みの案件で接することが多いので、どちらかというと「娘に激アマのパパ」のイメージが先行していた。
――だが、今のアルディはいつもの調子とは違っていた。
どこか緊張感が漂っており、思わずトアの背筋もピンと伸びた。
「まあ、座ってくれ」
「は、はい」
促されるまま、トアはアルディの座っているソファの対面の席へと腰を下ろす。そこにはすでにトア用のコーヒーが用意されていた。
「早速だが、君に相談したいことがあってね」
「相談?」
トアが着席した途端、アルディがそう切り出す。
「実は先日、ファグナス殿がこの森に来られてな」
「ファグナス様が?」
この森はエルフたちに自治権がある。
そのため、この地を治めるファグナス家の権力は通じない。
それでも彼がここへ訪れた理由――トアには心当たりがあった。
「……ファグナス様は何をしに?」
「新しい都市についてだ」
「!」
訪ねてきた理由は、トアの予想通りだった。
チェイスが以前見せてくれた都市の完成予想図では、このオーレムの森にも少なからず影響が出てくる。実は、トアはそれが気になっていた。次の定期報告の際に言及しようと思っていたが、どうやらチェイスはそのことをきちんと考慮していたようだ。
「ファグナス殿は答えを急がないとのことだが……私たちだけではどうにも判断できない案件なのでね。聞けば、君の耳にも新しい都市の開発計画は届いているということだったので、意見を聞きたくてね」
「俺の意見……ですか?」
「ああ。聞かせてほしい――チェイス・ファグナスは信頼に値する男か?」
揺るぎない瞳が、ジッとトアを見据える。
それを受けて、
「ファグナス様は信頼に値する方ですよ」
トアはすぐさまそう答えた。
「ふふふ、早いな。それだけ信頼しているということか」
アルディは大きく息をつくと、
「君がそう言うなら、我々オーレムの森のエルフはファグナス殿の計画に乗るとしよう」
「い、いいんですか、そんなあっさり!?」
「ほかならぬ君が言うんだから間違いないだろう」
そう語ると、ファグナスは立ち上がって窓の近くへと移動。
視線の先にはメリッサたちのいる診療所がある。
「新しい世代が着実に育ちつつある。あの子たちには、この森だけでなく、かつての――大戦が起きる前のように、多くの種族と交流を持ってもらいたいというのが私の願いだ」
「アルディさん……」
ローザたち八極と共に、帝国へ戦いを挑んだアルディが言うからこそ、その言葉には重みがあった。
やがて、アルディはトアへと向き直り、
「新しい世代といえば……父として、娘のクラーラに子どもができる日を待ち望んでいるわけだが」
「は、はあ」
「新しい世代といえば……父として、娘のクラーラに子どもができる日を待ち望んでいるわけだが」
「あ、あの」
「新しい世代といえば……父として、娘のクラーラに子どもができる日を待ち望んでいるわけだが」
「…………」
一歩ずつ近づきながら、同じ言葉を繰り返すアルディ。
それは、異変に気づいて家の中に突撃してきたクラーラの膝蹴りが後頭部に直撃するまで続いたのだった。
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