第389話 天使を呼ぶ方法
天界から神の命を受け、トアたちと共に地上へと降り立った天使リラエル。
しかし、天界人にとってもっとも敵対すべき勢力である魔人族のメディーナが村にいたことで、リラエルは地上へ来てから三日の間、かつてジャネットの作ったツリーハウスに閉じこもっていた。
「うぅ……申し訳ありません、トア村長殿」
「メ、メディーナのせいじゃないよ」
「天使にとって魔人族は決してかかわってはならないとされる禁忌の存在……思わぬ落とし穴でしたねぇ」
メディーナを慰めるトアの横で、フォルがそう呟く。
それに異を唱えたのはエステルたち女子組だった。
「でも、メディーナはとてもいい子よ?」
「たまに私の剣術の稽古を手伝ってくれるし」
「子どもたちからも慕われていますよね」
「わふっ! メディーナちゃんは良い子です!」
「性格については僕も保証しますが……」
それで解決できるほど、天使族と魔人族の間にある溝は浅くない。もっと根深い、根本的な理由があるのだ。
「やれやれ、戻ってきて早々に厄介事とはね」
そこに現れたのは行方不明(未遂)のシャウナだった。
「しかしこの状況――かつてイズモから聞いた、ヒノモト王国に伝わる伝説と非常に酷似しているな」
「えっ? ヒノモトの伝説?」
シャウナによると、その伝説とは次のような内容だった。
かつて、神々の暮らす土地に悪さばかりする者がいた。その乱暴な振る舞いに怒った太陽の神は洞窟へと潜り、入り口を大きな岩でふさぐとそのまま閉じこもってしまう。太陽を失った世界は真っ暗闇に閉ざされてしまい、神々は大いに困ってしまった。どうにか太陽の神を洞窟から呼び出そうと、他の神たちは知恵を振り絞り、その結果、閉じこもってしまった洞窟の前で大宴会を始めた。その騒ぎが気になった太陽の神はそっと岩をどかして洞窟の中から外の様子を窺う。それを好機と見た神々は、太陽の神の腕を引いて洞窟から引っ張り出し、閉じこもった原因となった者が真摯に謝罪することで、世界は再び眩い太陽の光に包まれた――というものだ。
「そ、そんな伝説が……」
「今の状況――まさにリラエルは閉ざされた洞窟にこもる太陽の神そのものじゃないか?」
閉じこもるまでの経緯に違いはあるが、確かに状況は似ていた。
「つまり、リラエルをこちら側へ連れ出す方法はただひとつ――古今東西あらゆるうまい酒とうまい料理で大騒ぎすることだ」
「はい! ……うん?」
正解だけど正解じゃないような。
なんとも言えない微妙な感じがするトアだったが、すでにシャウナの指示を受けてジンやゼルエスは樽に入った酒を市場の商人から提供してもらっていた。
「さあ! 今日は飲むぞ! 宴会――じゃなくてリラエルのために!」
「「「「「おう!」」」」」
「本音漏れかけてましたよ!?」
トアのツッコミもどこ吹く風。
早速リラエルを引っ張り出すという大義名分のもとに大宴会は開かれた。
さらにここで追い打ちをかけるように、
「僕特製の甘辛だれにつけた焼き鳥を」
炭で焼いた焼き鳥の食欲をそそる匂いが、フォルの手によって巧みにリラエルがこもるツリーハウスへと流れていく。
直後、
ドタン! バタン!
ツリーハウスから何やら物音が。
「反応がありましたね」
「その調子で頼むよ、フォル」
「承知しました、シャウナ様」
フォルのおいしい料理の匂い攻撃にプラスして、楽しそうに騒ぐ村民たちの声。
それが積み重なり、とうとう、
「だあああっ! 分かったわよ! 出るわよ! 出りゃいいんでしょ!」
リラエルはツリーハウスから飛び出して宴会に参加。
おいしい料理においしい酒を心行くまで楽しんだ。
そのうち、
「あんた、魔人族のくせになかなかいいヤツじゃない!」
「リラエル殿も楽しいお人ですな!」
天使と魔人族はすっかり意気投合していた。
「……誘惑に弱い天使ねぇ」
「ま、まあまあ」
呆れたように言い放つクラーラをなだめつつ、トアたちも宴会に参加した。
リラエルの歓迎会という名の大宴会に。
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