第368話 ある冬の1日
【お知らせ】
カクヨムコンに向けて新作投稿!
「マイホーム・ドラゴン ~手乗り霊竜とその孫娘を連れて行く自由気ままな冒険譚~」
https://kakuyomu.jp/works/1177354055033755686
最新第6話はこのあと8時に投稿予定!
よろしくお願いします!
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「ワオーン!」
要塞村の朝は銀狼族の遠吠え(当番制)から始まる。
この声を聞いて、村民たちは目を覚まし、一日がスタートするのだ。
――が、最近ではその遠吠えよりも前に起きて仕事に取りかかっている者たちがいる。
それは要塞村市場で寝泊まりをしている商人たちだ。
彼らはまだ薄暗さの残る早朝から朝市の準備をしており、活気がある。
「う~、寒ぃなぁ」
商人のひとりが両手をさすりながら市場中央へとやってくる。そこには焚火があり、多くの商人たちが仕事の合間に暖を取っていた。さらに、肉や野菜を焼いてそれを朝食として食べる者もいた。
「みなさん、おはようございます」
そこへ、市場にある喫茶店のオーナーを務めるエルフ族のセドリックがやってくる。彼は商人たちへ店のコーヒーを配って歩いていた。それは、いつも朝早くから働いている彼らへの差し入れだった。
「いつも悪いねぇ~、セドリック」
「いえいえ」
「それにしてもうまいコーヒーだなぁ。エルフの森から取り寄せているらしいが……」
「さすがはエルフたちの住む森で育ったコーヒー豆。並みの品とはできが違うぜ」
「あははは……」
コーヒーを絶賛されて嬉しいはずが、その豆の採取方法がかなり特殊であるため、セドリックの顔は自然と強張った。
日が昇り、エノドアやパーベルなどから駆けつけた人々で市場が賑わってくると、要塞村の村民たちもそれぞれの仕事へと向かっていく。
「さあて、今日は久々の狩りだから張り切るわよ~!」
「クラーラ様、せめて地図に地形が残るくらいは力をセーブしてください」
「どういう意味よ!」
「ま、まあまあ」
クラーラ、フォル、トアの三人がいつものやりとりをしながら、屍の森へと入っていく。それを見届けたエステルは、村の子どもたちを集めていた。
「さあ、今日はお絵描き会をするわよ」
「「「「「はーい!」」」」」
アネスやティムを中心に、総勢二十人ほどの子どもたちを連れたエステル先生一団は、要塞村の中庭へと向かって歩き始めた。
同じ頃、ドワーフ族の工房にはジャネットとマフレナがいた。
「じゃあ、お願いします」
「わっふっ!」
工房ではドワーフ族が新たに開発した防具(盾)の耐久テストが行われていた。
「わふっ!」
高い身体能力を持つ銀狼族マフレナの強烈な蹴り。それを受けても、盾はビクともしなかった。
「やりましたね、お嬢」
「ええ。でも、まずは第一段階突破ですね」
ゴランとジャネットはまず成功に喜びつつ、次のステップこそが大事だと気を引き締めた。
「マフレナさん」
「わふっ! お任せあれ!」
さっきの攻撃はほんの小手調べ。
ここからが本番だ。
「わっふぅ!」
マフレナの銀髪が金髪へと変わっていく
銀狼から金狼へ。
一瞬のうちに、マフレナは銀狼族でも数少ない伝説の存在へと姿を変えていた。
「わっっっっふぅ!」
金狼状態から放たれた一撃は先ほどの攻撃と段違いの威力となる。
その結果、ドワーフたちの作った盾は真っ二つになった。
「ああっ! ごめんなさい!」
「いいんですよ。むしろまだまだ改良の余地があると分かってヤル気が出てきましたから!」
ジャネットの言葉に、他のドワーフたちも賛同する。
こうして、要塞村謹製防具はその性能をさらに高めていくのだった。
それぞれが仕事に精を出していると、次第に周囲は夕焼け色に染まり始める。
「今日の狩りもバッチリね!」
「それにしても、まさかあそこで触手が出てくるとは思わなかったよ」
「意外な展開でしたね」
狩りを終えたトアたちが要塞村へと戻ってくる。
その途中、庭園でのお絵描き会を終えた子どもたちとエステルに出くわす。
「おかえりなさい
「ただいま、エステル」
そこへさらに、ジャネットとマフレナもやってきた。
「みなさん、お仕事お疲れ様でした」
「ジャネットこそ、新しい防具の開発をしていたんだろ?」
「ええ。マフレナさんに手伝ってもらったおかげで、新たな発見がありました」
「わふふ~♪」
夕陽の中、仕事を終えた村民たちは村へと戻り、商人たちも店じまいを始めている。
要塞村での一日が終わろうとしていた。
「明日はジャネットたちの仕事を手伝うよ」
「ありがとうございます」
「あっ! パパだ~!」
トアを見つけたアネスがダッシュで駆け寄ってそのまま抱きつく。
診療所から戻ってきたケイスとアシュリー、さらにモンスター組も合流して、トアの周囲はにわかに騒がしくなりつつあった。
「さて、それじゃあ夕食にしようか」
今日一日を締めくくる夕食+宴会に向けて、トアを先頭に村民たちは要塞内部へと帰っていった。
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