第366話 屍の森に潜むモノ【後編】

「こ、これは……」


 トアたちの前に現れたのは一頭の馬だった。

 しかし、それは普通の馬とはまるで違う存在といえた。


 まず、馬体は初雪のような純白で、四足歩行と角という目撃情報とも一致している。ただ、とても弱っているようで、足取りがおぼつかない。


「ト、トア……」

「マスター……」

「ああ、間違いない――こいつが犯人だ!」


 三人はそれぞれ武器を構える。

 弱っている今なら楽に倒せるだろうと踏んでいた。

 だが、その時、


「待つのじゃ!」


 攻撃を開始しようとしたトアたちを制止したのはローザだった。


「ロ、ローザさん!?」

「トアよ、そこにいるのはただの馬ではないぞ!」

「角もあるし、普通じゃないのは見たら分かるけど……」

「! も、もしや!?」


 突然、フォルが声を荒げる。

 

「ど、どうしたんだ、フォル?」

「いえ、もしかしたら……あれは神獣ユニコーンでは?」

「「ユニコーン?」」

 

 トアとクラーラの声が重なる。ふたりは揃ってローザの方へと顔を向けると、そのローザは静かに首を縦に振った。

 直後、ユニコーンはその巨躯を地面へと横たえた。


「! トアよ! 神樹の魔力をユニコーンへ与えるのじゃ!」

「えっ? そ、それって……」

「時は一刻を争う! ほれ、ワシに続くのじゃ!」


 初めて見る、取り乱した様子のローザ。 

 それに動揺しつつ、ローザの指示した通りに聖剣へ魔力を集めると、ユニコーンへそれを注いだ。

 すると、あっという間にユニコーンは元気になり、スッと立ち上がった。


「どうやら、危機は去ったようじゃな」

「ですね。――って、そろそろ説明してくださいよ、ローザさん」

「うむ。そうじゃな。相手が神獣となれば話はガラッと変わってくる……皆を集め、円卓の間に向かうとするか」


 ローザはそう言って、ひと足先に円卓の間を目指して歩きだす。

 トアはフォルにみんなを集めてくるように指示を出し、クラーラへは大人しくなったユニコーンを一旦エルフ族が運営する牧場へ預けるよう伝えてローザの後を追った。


  ◇◇◇


 円卓の間に集められた各種族の代表たちに向かって、ローザは神獣ユニコーンについてその詳細な情報を語った。


「あのユニコーンは天界の生物じゃ」

「「「「「天界?」」」」」


 一瞬にして、円卓の間をざわつきが包んだ。

 皆、天界という言葉に対してあまりイメージが湧かないようで、それぞれが憶測を口にしていた。そんな中、ひとりの女子が静かに挙手をする。


「あ、あの、自分は天界を知っているであります」


 魔界出身の魔人族――メディーナだった。


「確かに、メディーナたち魔人族にとって、ユニコーンのような天界の生物は切っても切れぬ間柄じゃろうからな。天使族とは今もケンカが絶えないのかのぅ?」

「まあ、確かに昔はいろいろあったようでありますな……でも、今はそんなことないでありますよ」


 と、言いつつも苦笑いを浮かべるメディーナ。

 その反応から、あまり良好な関係であるとは言えないようだ。

 しかし、


「自分がカーミラ様のもとにつくよりも前はまさに因縁の相手という関係であったと聞いているであります。とはいえ、実際に顔を合わせたのはこれが初めてでありますし、自分としてはユニコーン――いえ、天界に対してほとんど接点がなかったため、別に悪い気は持っていないであります」

「天界と魔界が犬猿の仲というのは聞いておったが……今の若い世代にとっては関係のない話じゃったか」

「その辺は魔界でも地域差があると思います」


 とりあえず、魔人族と神獣の間にいざこざは発生しないようでホッと胸を撫で下ろす一同。だが、そうなると次なる疑問が。


「でも、どうして天界の生物である神獣ユニコーンが屍の森に?」


 エステルの素朴な質問。

 自然と、答えを知っている可能性が一番高いローザへと視線が集まる。

 そのローザは円卓に置かれたティーカップでお茶をすすったのち、考察した結果を述べた。


「原因は要塞村じゃな」

「要塞村……ですか?」


 トアが尋ねると、ローザは「ふぅ」と一息ついてから続きを語る。


「地下古代迷宮は魔界とつながったことがあるんじゃ。ワシらの知らないところで、天界とつながっていたとしてもなんら不思議ではない」

「「「「「ああ……」」」」」


 その場にいた全員が、同じ反応だった。

 漠然として確証も何もないが、妙な説得力があったのだ。




 結局、その後の話し合いで、当面の間はユニコーンを要塞村で世話することになった。

 一時的に天界ともつながっていた可能性があるとして、シャウナをリーダーとする古代遺跡調査隊はさらなる解明に向けて早速翌日から遺跡探索を強化するという。

 そのユニコーンも、要塞村が気に入った様子で、特に守護竜シロとは特に仲が良く、一日のほとんどを一緒に過ごしていた。


「でも、まさか天界の神獣までもが要塞村に住むなんて……」

「今さら感がありますよ、マスター」

「それもそうだね」

 

 ははは、と笑いながら、村民たちに可愛がられるユニコーンを見つめるトアとフォル。

 思いがけぬ形で、要塞村に新たな仲間が加わったのだった。

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