第365話 屍の森に潜むモノ【前編】
「えっ? 森にモンスターが?」
ある日、要塞村市場で店を出す複数の商人からこのような証言を得た村長のトアは、緊急対策会議を開くことにした。
――が、
「相手がモンスターならとっとと討伐しちゃえばいいのよ!」
愛用の大剣を振り回すクラーラの脳筋理論。
しかし、トアや円卓の間に集まった各種族の代表者たちも同じ考えであった。
その後、会議では商人たちが目撃したというモンスターの特徴についても語られた。
進行役を務めたのは市場の管理を任されているナタリー・ホールトンであった。
「目撃情報によると、モンスターの出現した時間帯はいずれも夜。エノドアやパーベルなどを行き来している最中に発見したという話よ」
「外見で目立った特徴はあるのかい?」
シャウナが言うと、ナタリーは商人たちからの証言が書かれたメモに目を通し、そこからの情報を抜粋して伝える。
「時間帯が夜ということもあって、周囲は薄暗く、全身をハッキリ見たという証言はないんですよ。分かっていることは、大きな体に四足歩行、そして額には大きな角があったということくらいで」
「なんとも漠然とした情報じゃな」
情報がこれだけでは、さすがの八極ふたりもお手上げらしい。
「幸い、大きな怪我人などは出ていませんが……このまま放置していると、いずれは――」
「分かっていますよ、ナタリーさん」
トアは村長として、村民や市場で働く商人たち、それと、この村を訪れる人々を守るために決断を下す。
「早速今日から要塞村周辺の警備が強化します。あと、エノドアのレナード町長やパーベルのヘクター町長に、モンスター出現を知らせて注意喚起してもらいます」
それが、今できる最良の手段であると判断したトア。
村長からの命を受けた代表者たちは、それぞれに与えられた使命を果たすため、持ち場へと散っていった。
◇◇◇
その日の夜。
厳戒態勢の要塞村では、いつもの倍以上の村民が夜間警備にあたっていた。
証言から、モンスターは夜行性であることが判明しているので、昼間以上に警戒を厳しくしていたのだ。
トアも村長として警邏に参加しており、フォルとクラーラを連れ、発光石の埋め込まれたランプを片手に村の周囲を見て回っていた。
「並みのモンスターであれば、恐れる必要もないのですがね」
「今は商人さんたちもいるから、そうも言っていられないでしょ?」
「まあ、警戒して何も出てこないのであればそれに越したことはないよ」
以前の要塞村ならば、特に警戒しなくても凄まじい戦闘力を持った村民ばかりなので気にはならなかったが、市場ができたことで一般人も多くとどまるようになった今は状況が違ってくる。
村の女性や子どもたちだけでなく、そういった人々を守るのもまたトアたちに課せられた役目なのだ。
話しながら進む三人――その前方にある茂みが、突然ガサガサと揺れ始めた。
「出たわね!」
勇ましく叫び、大剣を構えるクラーラ。
「クラーラ様……女子として今の反応はいかがなものかと」
「な、なんでよ?」
「そこはもっと、『きゃ~』とか『怖い~』とか言ってマスターに抱きつけばいいのに」
「? ……っ!?」
言葉にこそ出さないが、「絶好のチャンスを逃した!」という気持ちがヒシヒシと伝わってくる顔つきとなったクラーラ。
一瞬にして緊張感は崩れてしまったが、件のモンスターが出現したのは間違いない。
「こんなに接近していたなんて……」
トアも聖剣を構えて迎え撃つ態勢を整える。
すると、茂みからうごめく者が正体を見せた。
「なっ!?」
その予想外な姿に、トアは思わず叫んでしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます