書籍3巻発売記念番外編 要塞村の衣替え
秋真っ盛りの要塞村。
周辺の景色の変化に伴い、村民たちの着る服にも徐々に変化が表れ始めていた。
「だんだん寒くなって来たから、長袖の服を出しておかないとね!」
「わふっ! そうですね!」
「えっと、どこら辺にしまっておいたか……ジャネット、覚えてる?」
「こっちですよ、エステルさん」
特に女子組は服の数も多いため、衣替えは大仕事である。
現在、エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットの四人はトアと一緒に無血要塞の最上階にある部屋を改装した村長室で暮らしている。
今はそこにある一室で衣替えのために洋服の大整理を行っていた。
と、その時、
「…………」
「? どうかしましたか、エステルさん」
「ねぇ、ジャネット……一度、その服着てもいいかしら?」
「えっ?」
エステルからの提案に驚くジャネット。
だが、すぐに興味が湧いて了承した。
また、逆にジャネットがエステルの衣装を身に着けたいと申し出ると、これを快諾。お互いにスタイルも似ているので、着替えもすぐに済むだろう。
というわけで、ここに第一回服装交換会が実施されたのである。
「どうかしら?」
「似合っていますよ、エステルさん」
「ありがとう♪ ジャネットもいいじゃない」
「そ、そうですか?」
「「…………」」
楽しそうなエステルとジャネットを眺めていたクラーラとマフレナ――と、くれば、次にふたりが取る行動は目に見えている。
「マフレナ!」
「わふっ! 分かっていますよ! 衣装交換ですね!」
と、いうわけで、エステルとジャネットにならってクラーラとマフレナも衣装を交換することにした――が、
「わ、わふっ?」
すぐに異変に気づいたマフレナ。
そして、自身が犯した過ちにも――
「ク、クラーラちゃ――」
振り返ったマフレナは絶句し、顔面蒼白。
そこには、この世の終わりを迎えたような表情で自分の衣装を身にまとうクラーラの姿があった。
原因は明白。
マフレナの胸の部分である。
いつも着用しているマフレナは特に気にしてはいないが、その部分についてはクラーラと圧倒的なサイズ差が生じていた。そのため、クラーラが着ると、ちょうど胸の辺りは不自然にぶかぶかとなるのだ。
ノリと勢いで衣装交換を申し出たクラーラだったが、完全に申し出る相手を間違えた形になった。
「え、えっと……クラーラちゃん?」
「大丈夫よ……マフレナ……きっともうちょっとしたら劇的に成長するはずだから……具体的には五年後くらい……」
虚空を眺めながらボソボソと呟くクラーラ。
「だ、大丈夫よ、クラーラ」
「そうですよ、クラーラさん」
事態を察してすぐさまフォローに回るエステルとジャネット。
すると、間の悪いことに、
「みんな、フォルがこの前の焼き芋の残りで新作のスイーツを作ったらしいんだけど――」
トアが部屋に戻ってきたのである。
「「「あっ」」」
「どうしたんだ? ――あっ! みんな服を入れ替えたんだ。似合っているよ」
「そ、そう?」
「て、照れますね」
「わふぅ~♪」
トアに褒められて浮かれる三人。
だが、それによりあらわとなってしまうクラーラの存在。
「おっ、クラーラはマフレナの格好で――」
途中で遮られるトアの言葉。
理解したのだ。
クラーラが誰の格好をして、なぜ前に出てこなかったのかを。
「…………」
もっとも見られたくなかった人に見られてしまったことで、クラーラの中で「何か」が弾けた。
「わあああああああん!」
羞恥心から暴走状態に陥ったクラーラ。
結局、半日をかけてなんとかしずめることができたのだが、冬服への衣替えはまだまだ終わりそうになかった。
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