第361話 要塞村・秋の図書館ウォーズ⑦ バルコガノフの野望
「思ったよりやるじゃないか、小僧ども! 八極ふたりを引き連れているだけはあるな!」
トアたちの前に現れたバルコガノフは、最初に見かけた時と同じ本の姿をしていた。
「それがおまえの本体なのか……?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
「何?」
「トアよ! バルコガノフはあらゆる物に自分の魂を移すことで、何百年間もこの世界に存在し続けておるのじゃ!」
それが、《錬金術師》のジョブを持つバルコガノフの能力。
言ってみれば、不老不死だ。
「そういうことですか……」
「面倒臭いヤツね! 何体いようが、全部ぶった斬ってやるわ!」
闘争心むき出しのクラーラを制止して、トアはさらに続ける。
「なぜジャネットを狙った?」
「この娘は卓越した妄想力を有しておる! ここまで凄まじい者は初めて見るぞ!」
「「「「「「…………」」」」」」
それに関しては誰も異論を唱えなかった。
「この娘の生み出す世界に興味がある。これからも私の実験に付き合ってもらうつもりだ――永遠に、な」
「……相変わらず、悪趣味なヤツじゃな」
「まったくだ」
バルコガノフを知るローザとシャウナは呆れたように言う。
だが、バルコガノフのテンションは衰えを知らず、さらに声を張り上げていく。
「そんなことはさせない。――返してもらうぞ。ジャネットは俺たちの大切な仲間だからな」
「やれるものならばやってみるがいい! 貴様のような小僧に何ができ――」
ゴウッ!
バルコガノフがしゃべり終えるよりも先に、トアの魔力がその輝きを増した。
本の中という異空間でありながら、神樹ヴェキラからの魔力供給は途切れていない。
「!? な、なんだ!? このデタラメな魔力量は!?」
「バルコガノフよ……覚悟するんじゃな」
先ほどまでの戦闘では見せていなかった膨大な魔力量に動揺するバルコガノフ。そんな彼を嘲笑い、注意を促したのはローザだった。
「そこにいる少年――トア・マクレイグと戦うのは……ワシらを相手にするよりもずっと厄介じゃぞ?」
「まったくだね」
「なんだと!?」
世界を救った英雄ふたりからのお墨付き。
それだけで、トアの実力はありありと伝わった。
「まだまだ……こんなものじゃない!」
トアはさらに魔力を高めていく。
肉眼でもハッキリと視認できるほど色濃くなって表れ始めた神樹の魔力。その金色の輝きを前に、先ほどまで異様に高かったバルコガノフのテンションはダダ下がりとなった。
「こ、これほどの魔力……一体何者なんだ、その少年は!?」
「彼はワシらが世話になっておる村の村長じゃよ」
「そ、村長!? ど、どういう――」
「話はここまでだ。そろそろご退場願おうか」
シャウナが言い終えたと同時に、トアは剣を構える。
むろん、バルコガノフとしてもこのままただやられるわけにはいかない。
「おのれ!」
バルコガノフは自身が持てる最大の魔力をトアへぶつけるため、魔力の錬成を始める。それはやがて巨大な紫色の球体となり、トア目がけて放たれた。
「消し飛ぶがいい!」
トアの身長よりもずっと大きな魔力の塊。
だが、それを前にしてもトアは一切怯むことなく、
「はあっ!」
ジャネットに造ってもらった聖剣エンディバルを振り、一刀両断。
バルコガノフ渾身の一撃は、あっという間に消滅してしまった。
「何ぃ!?」
「終わりだ!」
お返しとばかりに、トアは聖剣から放たれる金色の魔力を球体に変えて放つ。それに呑み込まれたバルコガノフ(本)は断末魔をあげて跡形もなく消え去った。
「ジャネット!」
一息つく間もなく、トアはジャネットを救うべく走りだした――その瞬間、周囲が眩い光に包まれていった。
そして――
「うわっ!?」
周囲を覆っていた光が消えると、突然足元がなくなって浮遊感を得た――が、それはほんの一瞬のことで、すぐに別の場所へと放り出される。そこは、
「トア!?」
「トア様!?」
エステルとマフレナの叫び声を聞いて、トアは理解する。
ここは――要塞村図書館だ、と。
「! そうだ! ジャネット!」
ジャネットの安否が気になったトアは周囲へ目を向ける。
すると、すぐ真横に気を失っているジャネットを発見した。
「よかった……」
ホッと胸を撫で下ろすトア。
クラーラやローザといった、他の仲間たちも全員無事のようだ。
こうして、錬金術師バルコガノフの起こした騒動は幕を下ろしたのである。
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