第358話 要塞村・秋の図書館ウォーズ④ 対決

 本の世界で出会ったクレイブとエドガー。

 しかしこのふたりは明らかに現実のふたりとは異なる。


「さあ、共に戦おう……エドガー」

「おうよ」


 共に手を取り、アツく見つめ合うふたり。

 その様子を冷ややかな目で見つめる要塞村の六人。


「……トアよ。問題なければ、ワシの魔法で吹き飛ばすが?」

「……お願いします」


 さすがにこれ以上は見るに堪えないと判断したのか、ローザが名乗り出て、トアはそれを了承した。

トアからの許可が下りたことで、ローザは強力な雷魔法をクレイブ(偽)とエドガー(偽)に放ち、直撃を食らったふたりはそのまま灰塵となって消えた。


「うぅ……偽物と分かっていても、罪悪感が凄い……」


 胸を痛めるトア。

 だが、敵は待ってくれない。

 続いて第二波が襲ってきた。


「ここから先へは行かせないわ!」

「お覚悟を!」

「はあ……めんどくさ」


 ヤル気満々のネリスとタマキ、そしてダルそうなミリアが立ちふさがった。見たところ、こちらの三人も目立った変化は見られないが、


「タマキ……あなたは後ろに下がっていなさい」

「そんな! 私も微力ながらネリス殿の力になります!」


 ネリスとタマキが先ほどのクレイブとエドガーのような空気を醸し出していた。


「ジャネットめ……そっちもイケるクチじゃったか……」


 ローザが呆れたように言う。

 他の五人も「またか」といったリアクションだった。

 ――が、今回は例外がある。

 それはカップリングから漏れているミリアの存在だ。


「まさか、ミリアも!?」

「話しかけないでもらえますか? ぶっ殺しますよ?」

「よかった! ミリアはいつも通りだ!」

「「あれで!?」」


 面識はあるものの、あまり付き合いのないメルビンとメディーナは、その毒舌ぶりに驚くのだが、トアからしてみればいつも通りであった。

 兄であるクレイブへ強い想いを抱く彼女が、他の女子といい雰囲気になったりはしない。ジャネットにとって、それはかつて共に同人イベントを駆けた同士として譲れない点だったのではないか。


 ――とはいえ、そんな考察は必要ない。


「トアよ」

「お願いします」


 皆まで言わせず、トアはローザの言葉に頷く。

 再び放たれた強力な雷魔法が、三人の偽物をまとめて排除した。


「もしかして……まだ他にもあるのか?」

 

 脅威は去ったものの、一抹の不安がトアを襲う。

 それでも、ジャネットを救うためには前進するしかなかった。



 しばらく歩いていくと、小高い丘に到着。

 そこから周囲の景色を探ってみると――明らかに最終目的地と思われる古城が出現。


「あそこにジャネットが……」

「まず間違いないだろうね。しかし、さすがは《錬金術師》のバルコガノフ。ここまで広大なフィールドを本の中に生み出すとはねぇ……感動さえ覚えるよ」


 八極のリーダーである勇者ヴィクトールも認めるバルコガノフの錬金術。

 それによって生み出された精巧な空間に、シャウナは感嘆の声をあけた。


 だが、トアからすればそのような気持ちより、怒りの方が先に出てくる。


「行こう! あそこでジャネットが待っているんだ!」


 まだ危険はないとローザは言ったが、それも決して断言はできないと付け加えていた。もしかしたら、ジャネットは酷い拷問を受けているかもしれない。そう思うと、トアは居ても立ってもいられなかった。


 それは他の五人も同じだ。

 一刻も早くジャネットを助けたい。

 その一心で、古城を目指し、走りだした。


 道中、植物城のゴーレムや魔界の昆虫たち、さらには地下古代迷宮で遭遇した量産型フォルなど、これまで戦った敵が襲ってきたが、トアたちはそれを難なく蹴散らしていく。それを繰り返すうち、自分たちが昔よりも強くなっていることを実感した。


 ――そして、一行はとうとう問題の古城の門前まで迫った。


「ようやくたどり着きましたね」

「うむ」

「さて……何が出るやら」

「どんな相手でも、私の大剣でぶった斬ってやるわ!」

「自分も全力を出すであります!」

「私もジャネットを様を救い出すため、全力で戦いますよ!」

「よし、突入だ!」


 トアの号令により、六人は古城の中へと入っていった。

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