第357話 要塞村・秋の図書館ウォーズ③ 本の世界へ
「では、拘束具を解くぞ――よいな?」
ローザからの言葉に頷いて応えるトアたち五人。
それを受けて、ローザは魔導新書バルコガノフの封印を解いた。
直後、ジャネットをさらっていった時のように本が開いた――が、今度は腕ではなく、強力な吸引力によってひとりずつ引きずり込まれていった。
「うわっ!?」
放り出されたそこは、森の中のようだった。
背の高い木々に見下ろされる中、トアたちは現状を確認する。
「ジャネットは……いませんね」
「気を緩めるでないぞ、トアよ。他の者たちもじゃ」
「とはいっても……ただの森にしか思えないけど……」
大剣を手にするクラーラは、どこか物足りないといった感じ。メルビンとシャウナもあまり警戒していないようだが――魔人族のメディーナだけは違った。
「ここはなんだか……嫌な気配がするであります」
紫色の肌に金色の瞳を持つ魔界生まれのメディーナには、この本の中の世界の異様さが分かるようだ。
「さすがじゃな、メディーナ。お主を連れてきたのは正解じゃった」
「えっ? そ、そんなに変ですか?」
聖剣を持つトアさえ、まだこの本の世界の異様さにピンと来ていないようだったが、すぐにそれを理解することになる。
ガサガサ――
「!? な、なんだ!?」
トアたちの背後にある茂みが大きく揺れた。
すぐに臨戦態勢を取る六人。
現れたのは、
「なんだ、おまえたちは?」
「ははーん……女王様の言っていた侵入者だな」
ふたりの若い男だった。
その身なりから兵士のようだが、トアたちは彼らの顔を見て驚愕した。
「ク、クレイブ!?」
「その隣はエドガーのようじゃのぅ」
トアとローザが口にした通り、現れたふたりの男はクレイブとエドガーだった。
しかし、ふたりとも服装がいつもと大きく異なっている。エノドア自警団の制服姿でいることがほとんどであるが、今はまるで大道芸人みたいな派手な服装だった。
「エドガーはともかく……どうしてクレイブがあんなおかしな格好を……」
「さりげなく酷いでありますよ、トア村長……」
「付き合いが長いからこそ言える、忌憚のない意見ってヤツよ」
メディーナの肩を優しく叩くクラーラ。
――次の瞬間、クレイブは思わぬ言葉を口にする。
「愛するエドガーへの侮辱……許さんぞ!」
「「「「「「!?」」」」」」
「おいおい……こんな大勢の前でやめろよ、クレイブ」
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
突然、なんの脈絡もなくいちゃつき始めるクレイブとエドガー。
「ど、どうなっているのよ!」
「あのふたり……そういう関係でありましたか……」
「落ち着いてください、ふたりとも! ここは現実の世界じゃありませんから!」
動揺するクラーラとメディーナを落ち着かせるメルビン。
トアやローザ、それにシャウナも、まさかの言葉に驚きを隠せなかったが、メルビンの言う通り、ここは現実世界ではない。
魔導新書バルコガノフが作りだした世界なのだ。
「で、でも、あの魔導新書はどうしてクレイブとエドガーをあんなふうに……」
「「…………」」
困惑するトアであったが、ローザとシャウナには心当たりがあった。
魔導新書は、取り込んだ相手の趣味嗜好を読み取り、それに合わせた世界観を本の中に構築する。
つまり、取り込まれているジャネットの趣味嗜好が――
「トアよ! 気をつけるのじゃ! あのふたりはお主らが知るふたりではないぞ!」
「この世界を守ろうとする兵士だ! 戦闘になるぞ!」
ジャネットのプライバシーを保護するため、咄嗟に関心をそらすように叫ぶ英雄ふたり。
だが、その行為は決して誤魔化しだけで終わるものではなかった。
「覚悟をしてもらおうか」
「へへへ、悪く思うなよ」
武器を構える妄想クレイブと妄想エドガー。
「ぐぬぬ……偽物と分かっていても戦いづらいわね」
「まったくであります」
やりづらさを感じながらも、相手は闘争心むき出しの状態。
どうあっても、戦闘は避けられない。
だが、ローザとシャウナはまったく別の恐怖を感じていた。
この世界にはまだ――ジャネットによってキャラ崩壊を起こしている者たちがまだまだ存在しているということに。
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