第356話 要塞村・秋の図書館ウォーズ② ジャネット救出計画
本の中に引きずり込まれたジャネットを救うため、トアは腕利きの村民たちを集め、対策会議を開いていた。
ローザの話では、すぐに命を狙われることはないらしいが、それでも危険な状態であることには変わらないので、迅速にメンバーを選出し、ジャネットを追って本の中に入っていかなければいけないという。
ちなみに、本自体は現在、ローザの拘束魔法で身動きを封じている。
「それにしても……あの本は一体なんなんですか?」
要塞村の円卓の間で、トアがローザに尋ねると、非常に答えづらそうに唸っていた。
「あの本は……古い付き合いのある某国の王立図書館に長らく封じ込められておった魔導新書じゃ」
「魔導新書……確か、バルコガノフって名乗っていたような……」
「バルコガノフだと?」
その名に反応を示したのはシャウナだった。
「えっ? 知っているんですか?」
「最近はあまりその名を聞かんが……ヤツは世界でただひとりと言われる《錬金術師》のジョブを持つ男だ」
「たったひとりだけのジョブ……そんな人がいるなんて」
「我ら八極のリーダーであるヴィクトールの《勇者》というジョブも、彼しか持っていないわけだしね。そもそも、君の《要塞職人》だって、君以外に扱っている者は見たことがないけどね」
言われて、トアはハッとなる。
確かに、フェルネンドの神官たちでさえ、《要塞職人》のジョブを知らず、《洋裁職人》と勘違いされたほどだ。
「戦闘は苦手だったみたいだが、いろいろと怪しげな物を生み出していると有名だった人物だよ。そういう意味では、帝国の魔法学者でこの無血要塞ディーフォルの建設に携わったレラ・ハミルトンに匹敵すると言えるだろう」
「でも、じゃあ、あの本はその《錬金術師》のジョブを持つ人物ということに……?」
「いや、それは違うじゃろう」
「だね」
ローザとシャウナはスパッと言い切った。
「ど、どうしてそう言えるんですか?」
「ワシらは一度だけじゃが、バルコガノフに会ったことがあるんじゃ」
「大昔だけどね。その時、不死の体を手に入れたとも言っていたし、恐らく、あの本はヤツが生み出した作品のひとつだろう」
《錬金術師》のジョブを持つ男――バルコガノフ。
その名を語る謎の本。
ジャネットをさらっていった者の正体が、おぼろげながら浮かび上がってきた。
「とにかく! 早くジャネットを救い出しにいきましょう!」
一方、血気盛んに大剣を振り回しながら騒ぐクラーラ。
エステルとマフレナも、言葉こそあまり発しないが、内に秘めた闘志は他の村民よりも燃え上がっているだろう。
ローザ曰く、本の中に入れるのは多くても六人。
トア、ローザ、シャウナの三人は確定。
残り三人を立候補者の中からくじ引きで決めることになった。
その結果、クラーラ、メルビン、そして、最近ジャネットと読書を通じて仲良くしている魔人族のメディーナが選ばれた。
「ジャネット殿……必ず連れて帰るであります!」
「私もお手伝いします!」
メディーナとメルビンはヤル気満々。
そんなふたりに、くじでハズレを引いたエステルとマフレナが「がんばって!」と激励の言葉をかける。
「ジャネット……待っていろ。必ず助けるからな」
トアは聖剣を握る。
その手には力が込められていた。
あの時――ジャネットを救えなかったことをひどく後悔していた。
だからこそ、トアはたとえどんな邪魔が入ろうともこの聖剣で蹴散らし、救い出そうと固く心に誓う。
「さて、大方準備は整ったようじゃな」
「「「「はい!」」」」
ローザがそう声をかけると、トア、クラーラ、メディーナ、メルビンの四人は声を揃えて気合のこもった返事をする。
そして、六人は要塞村図書館へと向かうのだった。
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