第350話 祭りの余韻と秘密基地
大盛況に終わった第三回要塞村収穫祭。
その余韻を残す翌日――市場はいつも以上に賑わっていた。
要塞村で収穫祭を楽しんだ後、そのまま要塞村に新しく造られた宿屋に泊まる者や、エノドアにパーベルといった近隣の町で夜を明かす者が多くみられた。
そのため、夜が明けても、お祭りの楽しさが忘れられずに要塞村を訪れるリピーターが多かったのである。
「まだまだ賑わいは収まりそうにないわね」
「本当だね」
クラーラとトアは市場の喧騒に驚きながらも見回っていく。
今回の収穫祭では、王家の人間も参加したとあって、かなりの宣伝効果があるとナタリーは見込んでいた。そのため、商人たちも気合が入っており、店に並ぶ品物も、これまでに比べて希少価値の高い物が多い。
「これだけ人がいると、銀狼族や王虎族もいろんな人と交流できていいんじゃない?」
「特に子どもたちは興味津々って感じだね。ジンさんやゼルエスさんも、交流には積極的に強力してくれているし――うん?」
ふたりが歩いていると、人だかりにぶつかる。
大勢の人が集まっているのはここだけにとどまらず、あちこちに見受けられるのだが、トアとクラーラが気になっていたのはそこにいたのが村の子どもたちばかりだったからだ。
「どうしたんだ、ティム」
「あ、トア村長!」
トアは一番近くにいたティムに話を聞こうと声をかけたが、その直後、視線のすみっこにふたつの人影が写った。
「あれは……ジャネットとフォル?」
「そうなんですよ。あのおふたりにお願いしているんですが……」
「「お願い?」」
トアとクラーラの声が綺麗に重なる。
あのふたりにお願いということは、何かを作ってもらおうとしているようだ。よく見ると、ジャネットの表情は完全に仕事人のそれになっていた。
「何をお願いしたんだ?」
「僕たちの秘密基地を作ってもらおうと思って」
「へぇ……秘密基地かぁ……」
意外にも、クラーラがその話題に食いついた。
「私もオーレムの森にいた頃は秘密基地が欲しくてそれっぽい場所を探したなぁ」
「えっ! クラーラさんも秘密基地を!?」
「ええ。けど、完成しなかったのよねぇ」
「でしたらその無念をここで晴らしましょう」
トアたちのもとへやってきたのはフォルだった。
「秘密基地ねぇ……まあ、未だに憧れが消えたわけじゃないから興味はあるけど、どこに作ろうっていうの?」
「それは――あそこです」
フォルが指差したのは、屍の森にある木々だった。
「木って……ああ! ツリーハウスか!」
「ご名答」
「ツリーハウス?」
トアはすぐに察したが、クラーラはツリーハウスがなんであるかを知らないようだった。
「簡単にいえば、木の上に家を作るんだよ」
「木の上に!? 危なくない!?」
「その点については安心してください」
ここで、ジャネットも合流する。
「土台をしっかりと固定しておきますし、あまり高い位置に作らなければ問題ありません」
「なるほどね。他の誰でもない、ジャネットが言うんだから説得力絶大だわ」
こういった建築関係において、ドワーフ族であるジャネットはとても頼りになる。長い付き合いになるクラーラはそれを熟知しているので、彼女が断言すれば安心だと控えめな胸を撫でおろした。
「それにしても、ツリーハウスの秘密基地かぁ……」
「おや? マスターも興味がおありで?」
「まあね。そういうのが出てくる冒険小説とか読んでいたし、ずっと憧れていたんだ」
「じゃあ、トアさんの期待に応える秘密基地を作らなくちゃいけませんね」
フン、と鼻を鳴らすジャネット。
しかし、トアの期待に応えるとは言ったものの、今回の依頼人は村の子どもたち。当然そのことは忘れておらず、ジャネットは子どもたちからどんな秘密基地にするか、その要望を聞いて回っていた。
その様子を見ていたトアは、
「ジャネットって、子どもが好きなんだね」
と、呟く。
「……ねぇ、トア」
「何、クラーラ」
「私も子ども好きよ」
わずかな言葉の中に織り込まれた強烈な圧。
それを感じたトアは、「そ、そうなんだ」と答えることしかできなかった。
「やれやれ……おふたりとも、もう少し器用になっていただきたいものです」
そんなトアとクラーラのやりとりを見たフォルは、肩をすくめて苦笑いを浮かべるのだった。
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