第345話 第3回要塞村収穫祭④【マフレナ編】

「わふっ! 時間ですよ、ジャネットちゃん」

「えっ!? そ、そんな……私の計算では、まだデート開始から一分も経っていないはず」

「さすがにそれは無理じゃないかな……」


 ジャネットとのデート時間が終了し、三人目のマフレナが登場。

 

「次はマフレナだね」

「わふふっ! よろしくお願いします!」

「あはは、そんなにかしこまらなくても――あれ?」


 少し緊張気味のマフレナだが、トアはそれ以外にもある変化に気づいた。


「マフレナ……その服は?」

「あ、これですか? 今日のために用意していたんです!」


 クルッとターンを決めて服を見せるマフレナ。

 活発なマフレナにピッタリの動きやすそうなフォルムでありながら、赤を基調とした華やかなデザインが見事にマッチしている。それでも、相変わらず胸部はきつそうだった。

 ふと、トアの脳裏に、「最近、またマフレナ様の胸が成長しているようです」と、頼んでもいない情報を寄越したフォルの言葉が浮かび上がる。


「なるほど……成長未だ止まらず、と……」

「わふっ? 何か言いましたか?」

「はっ! い、いや、なんでもないよ。じゃあ、行こうか」

「はい♪」


 というわけで、マフレナとのデートが始まった。

 その最初の目的地は――


「わふっ! 今年こそ、アレを制覇しようと思っています!!」

「アレって……輪投げ?」


 昨年の第二回要塞村収穫祭において、クラーラと並び散々な結果に終わった輪投げ。エステルとジャネットが賞品をゲットしている様子を見ていたマフレナは、「今年こそは!」と密かに気合を入れていたのである。


「むっ? 挑戦するか、マフレナ」

「わふわふっ!」

「……て、今年の輪投げ担当はジンさんだったんですね」

「うむ。実に奇遇だな」


 あまりにもナチュラルに対応するものだから一瞬流しかけたが、天下の銀狼族の長が祭りの屋台で輪投げをやっている光景は非常にシュールだった。

 あと、本人は偶然を装っているが、間違いなくマフレナが輪投げに挑戦することを見越して店番をしているのだろう。


「勘違いしてもらっては困るが、一度こういうのをやってみたかったんだ」

「そ、そうですか……」

「そうなんだ。さあ、チャンスは三回だ。よく狙って投げるんだぞ、マフレナ」

「わっふぅ!」


 気合十分のマフレナだが、クラーラ同様、こういった細かな精度が求められる行為は苦手としている。パワーとスピードに長ける彼女は、綿密に作戦を練るよりゴリ押しでの戦法が得意だった。


「ははは、あの子はいつまでも変わらないな」


 輪投げに集中しているマフレナに気づかれないよう、こっそりとジンがトアへと小声で話しかける。


「小さな頃から、あんなに元気いっぱいだったんですか?」

「ああ。……まるで、あの子の母親を見ているようだ」


そう語るジンの顔には、どこか影があった。



 マフレナたち銀狼族は、要塞村から遠く離れた地で平穏に暮らしていた。

 しかし、火山噴火によって発生した自然災害の数々により、元いた場所での生活が困難となって放浪の旅に出ていた。そこで偶然、無血要塞ディーフォルで生活を始めたトアたちと出会い、今に至る。


 マフレナの母親は、その時の災害で命を落としていた。


「あの子は母親が亡くなった後も、明るく振る舞っていた。故郷を失い、憔悴しきった同胞たちを笑顔で支えていた。自分だって、本当は大声をあげて泣きだしたいのを堪えて……俺と母親の言いつけを守って」

「ジンさん……」

「だからこそ、今みたいに心から笑えているマフレナを眺めることができて幸せだと思う。それもこれも、すべてはトア村長のおかげだ」

「そんな……俺は……」

「これからも娘を――よろしく頼む」

「はい!」

 

 トアは力強く返事をする。

 その直後、


「やりましたぁ! 取れましたよ、トア様ぁ!」


 輪投げの成功により手にした小さな人形を小脇に挟んだマフレナが、トアへ勢いよく抱きついた。


「マフレナ!?」

「わふぅ?」

「あ、いや――凄いじゃないか!」

「はい! 大成功です!」


 いつもの笑顔で喜ぶマフレナ。

 それを見ていると、つられてトアもジンも笑ってしまう。


「わふ? ふたりとも、何かあったんですか?」

「何もないさ。なあ、村長」

「ああ。それより、デートの続きをしようか」

「はい♪」


 マフレナは幸せそうにトアと腕を組む。

 これからも、マフレナの元気な笑顔を守りたい。

 トアは素直にそう思うのだった。

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