第344話 第3回要塞村収穫祭③【ジャネット編】
「はい。終了ですよ、クラーラさん」
「うえっ!? もう!?」
ジャネットがデート時間終了を告げ、クラーラは名残惜しむように退散。代わって、今度はジャネットとのデートが始まった。
「それにしても、今日はみんなで回らなくてよかったの?」
「後夜祭でやるランプ交換の時には、みんなで揃って参加しますよ。でも、それまではトアさんとふたりきりで過ごす――というわけです」
そんな話をしながら、トアとジャネットが向かったのは――この収穫祭限定で営業しているドワーフたちの店だった。
要塞村にある工房で磨いた腕をいかんなく発揮し、さまざまな便利アイテムを低価格で販売しているのだ。
鋼の山出身のドワーフたちが手掛けた品々ということで、店は開店と同時に大繁盛。在庫がほとんど尽きかけているという好評ぶりだった。
「さすがだな、ゴランさんたち」
「ふふふ、みんな凄く気合が入っているんですよ」
ジャネットは嬉しそうに笑う。
ゴランたちドワーフが気合を入れているのには訳があった。
もちろん、収穫祭を盛り上げたいという気持ちが一番にあるのだが、実はそれ以外にも理由があった。
それは数日前――バーノン第一王子から届いた一通の手紙がきっかけだった。
手紙の内容は、帝国鉄道の件についてだった。
それによると、収穫祭が終了してから、選抜した調査チームを派遣するとのこと。さらに、その作業の際、要塞村のドワーフたちにも協力を要請したいとも書かれていた。
トアはこの内容をドワーフたちに伝えると、彼らは大喜びで引き受けた。
どうやら、彼らは以前から鉄道絡みの件に興味を持っていたようで、王国からのお墨付きで調べられると分かり、大興奮。そのこともあって、この収穫祭へかける情熱は凄まじいものがあった。
「ジャネットも相当気合が入っているんじゃない?」
「そりゃあ、まあ……私たちドワーフ族でさえ、あのような代物はどうやって造られているのか、まったく見当がつきませんから」
そう語るジャネットの瞳はキラキラと輝いていた。
好奇心の塊でもあるドワーフ族――その血が流れるジャネットも、ゴランたちのように帝国鉄道に興味津々だった。
「…………」
「? どうかしましたか、トアさん」
「いや……やっぱり、ジャネットは物作りに関わっている時は本当に楽しそうにしているなって思ってね」
トアはおもむろに、腰にある聖剣へ手を伸ばす。
「ジャネットには、いつかちゃんとお礼をしなくちゃいけないって思っていたんだ」
「ど、どうしてですか?」
「君が作ってくれたこの聖剣が……これまで、幾度となくピンチを救ってくれた」
聖鉱石を加工して作られた聖剣エンディバル。
ジャネットの最高傑作といって過言ではないこの聖剣は、神樹ヴェキラが放つ魔力を最大限に活用できる。この力で、グウィン族を襲撃したプレストンたちを撃退できたし、人魚族の島も救えた。
「そんな……私は……」
「ありがとう、ジャネット」
トアは真っ直ぐにジャネットを見つめながら感謝の気持ちを伝える。
と、ジャネットは聖剣の柄を持つトアの手に、自分の手を添えた。
「私は……あなたに必ずこの村へ戻ってきてほしい……ずっと、この村で一緒に暮らしたい……その願いが、この聖剣を作らせたんです」
トアのために、父であり八極にもその名を連ねる歴代屈指の鍛冶職人――ガドゲルのもとで修業を積んだ。ジャネットからすれば、自分の作った聖剣でトアはもちろんのこと、この村の平和が守られているなら、鍛冶職人としてこれに勝る喜びはなかった。
「なら、俺はこれからもこの聖剣に誓って――どんな状況からでも必ず生きて戻ってくるよ。この大好きな要塞村に」
「はい♪」
ふたりは笑い合って、ドワーフたちの店に向かって歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます