第343話 第3回要塞村収穫祭②【クラーラ編】

 前夜祭は例年にない盛り上がりを見せていた。

 ステージでの出し物は盛況で、振る舞われた料理も各方面から大絶賛を浴び、翌日の本番に向けて参加者のテンションは猛烈な勢いで上昇していった。

 


 そのまま夜明けまで宴会は続き、今朝も朝から喧騒が村全体を包んでいた。


 ちなみに、この日は領主のチェイス・ファグナスをはじめ、バーノン第一王子に、ヒノモト王国からはジェフリー王子と妻のツルヒメも来訪する予定となっている。

 

 王族までもが参加する要塞村収穫祭。

 そのトップに立つトアは、村長という立ち場を守りつつ、自身も祭りを楽しむためにいつもの女子四人と一緒に回ることとなっていた。


 しかし、今回は時間制限を設け、四人がそれぞれトアとふたりきりで回るという、いわゆるデート形式が取られることとなっていた。


 第一弾の相手は――クラーラだった。


「行きましょう、トア」

「ああ」


 こうして、村長室から揃って出たふたりは、まず市場へと向かった。

 いつも賑やかな市場だが、今日はさらに三割増しくらいでやかましく、人も多い。

 商人たちによる大特価セールや、さまざまな出し物が目白押しで、訪れた来訪者たちは目移りしてしまい、嬉しい困惑を抱いていた。


「それにしても、未だに信じられないわ」

「何が?」

「だって、私とトアがここで出会った時、要塞はボロボロでとても住めるような状態じゃなかったでしょ?」

「そうだったね……」


 昔を思い出すトア。

 思えば、あそこでリペアとクラフトの能力を発動できたからこそ、今のこの賑やかで楽しい生活がある。


「みんなの協力があったからだよ」

「何言っているのよ。あなたがみんなをしっかり引っ張ってきたからでしょ? ほら、あっちに人が集まっているわよ。見に行きましょう!」


 クラーラに引っ張られる形で人だかりの方へと向かうと、


「さあ、こいつをぶった斬ったら豪華賞品だよ~」


 呼び込みをする商人の横にそびえ立つ黒い鉄柱。

 どうやら、これを斬れるかどうかを試す催しらしい。


「へぇ、クラーラならいけるんじゃない?」

「うーん……鍛錬がてら、ちょっとやってみようかしら」

 

 そう言うと、「私がやるわ!」とクラーラが挑戦に名乗りを挙げる。


「おおっ! 要塞村が誇るエルフの剣士クラーラさん! では、どうぞ!」


 商人に促され、クラーラは鉄柱の前に立つ。

 クラーラを知る者は、「きっとやってのけるだろう」と確信しているが、その実力を知らない者からすると、「あんな女の子にできるのか?」と疑問を抱いている様子。


 だが、そんな彼らでも、クラーラが背負っている大剣を構えると、考えが一変する。


「な、なんてデカい剣なんだ!」

「それをあんなにも軽々と……」

「こりゃもしかするともしかするぞ!」


 途端に興奮しだすギャラリー。

 盛り上がりも最高潮に達したところで、クラーラが大剣を全力で振りぬいた。


 ズドォン!


 なんの抵抗も感じられず、真っ二つに切断された鉄柱は轟音を立てて崩れ落ちる。


「す、すげぇ……」

「あれがエルフ剣士のクラーラか……」

「並大抵のパワーじゃねぇ!」


 拍手をしながら、クラーラの底知れぬパワーに驚く人々。クラーラ本人は両手を振ってその拍手に応えると、トアの方へと戻ってくる――と、


「こっちの姉ちゃんもすげぇぞ!」


 誰かがそう叫ぶと、トアとクラーラは即座に反応して声の方向へと視線を移した。そこにいたのは、



「「ヘルミーナさん!?」」


 自警団副団長にして元フェルネンド聖騎隊のヘルミーナが、クラーラの斬った鉄柱を同じようにぶった斬っていた。

 その表情はなんというか……鬼気迫るというか、不機嫌そのものだった。


「なかなかの腕前だな、クラーラ」

「へ、ヘルミーナさんこそ……あの人、人間よね?」

「う、うん。たぶんそうだよ」


 小声で問われたトアは思わずそう返してしまう。

 すると、ふたりの背後からオレンジ色の髪をしたツインテールの少女が声をかけてきた――ネリスだ。


「ごめんなさいね、ふたりとも」

「ネリス? なんだか、ヘルミーナさんの様子が……」

「恋人のステッドさんと祭りを見て回る約束をしていたんだけど……肝心のステッドさんが直前になって来られなくなったって知らせが来たのよ」

「それで機嫌が悪いのね……」


 そういうことなら、とクラーラは賞品の受け取りを辞退し、ヘルミーナへと譲ることにしたのだった。


「本当によかったの?」

「まあね。その分、トアに何か買ってもらおうかしら♪」

「ああ。何でも言ってくれよ」

「よろしい♪ じゃあ、あっちのお店を見てみましょう」

「おう」


 目的地を決めると、ふたりは手を取り合い、その場所へと向かって歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る