第339話 さよならメリッサ
「単刀直入に言うと――メリッサは妊娠しているわ」
「ええっ!?」
村長室にいたトアへ、ケイスが診断結果を告げる。
その内容に驚くトアは驚き、さらにその場にいたクラーラ、エステル、フォルにも衝撃を与えた。特に、同じエルフ族であり、要塞村へ来る前からの古い付き合いであるクラーラは、他の三人以上に驚いていた。
「メ、メリッサが……」
呆然としているクラーラを横目に、トアはさらに詳しい情報をケイスへと求めた。
「ケイスさん、このことをセドリックは?」
「一番に伝えたわ。もちろん、メリッサから許可をもらってね」
「反応は?」
「喜んでいたわよ。けど、ふたりはまだ婚前だからねぇ……そういうのは、オーレムのエルフの掟としてどうなの?」
「も、問題なかったはずですけど……」
「なら、ご両親へも報告をしないと」
「あ、そ、そうですね!」
トアは慌てて部屋を飛び出そうとするが、ケイスから「村長とクラーラにはもう少し話したいことがある」と告げ、オーレムの森への使者の手配については、フォルとエステルに任せることとした。
「それで、話しというのは」
「今後の方針について、よ。あたしは医者だけど、エルフの出産はさすがに未経験なの。そもそも、そっち関係は完全に専門外だし」
「そ、そっか。人間の出産とは勝手が違うかもしれないものね」
「そうなのよ。だから……あたしとしては、きちんとした知識のある者がいるオーレムの森へ戻った方がいいと思うの」
「!?」
クラーラは一瞬目を見開き、すぐに顔を伏せた。
「でもね、クラーラ。赤ちゃんを生んだら、またこっちへ戻ってくればいいのよ」
「それまでちょっとのお別れ……ということですね」
「そういうこと」
トアとケイスがそう言うと、クラーラはわずかに笑顔を見せた。
その後、各種族の代表をはじめとするいつものメンツが、トアによって円卓の間に集められた。
議題はもちろんメリッサについて。
村医ケイスの見立てでは、産まれてくるのにまだまだ時間はかかるだろうとのことだが、専門的な知識が完全に備わっているわけではないので、オーレムの森へ戻って安静しているべきだと告げた。
これに、代表村民たちは賛同。
また、メリッサとセドリックふたりの話し合いにより、セドリックはもうしばらくの間、要塞村へ残って仕事をすることとなった。また、メリッサが中心で経営していたエノドアのケーキ屋については、しばらくフォルがフォローに入ることに決まった。
「――と、いうわけで、これからいろいろと引継ぎをしていかないとね」
「ご迷惑をおかけします」
「いやいや、この村にとって、エルフ族として最初の子どもになるんだ。みんな楽しみにしているよ」
「ありがとうございます」
「うぅ……お姉ちゃぁん……」
「もう、そんなに泣かないでよ、ルイス。ずっと離れ離れになるわけじゃないんだから」
トアとメリッサと妹のルイスがそんな会話をしている横では、ローザとセドリックが何やら話し込んでいた。
「間もなく使い魔たちがオーレムの森から戻るじゃろう。まあ、アルディのことじゃから、もろ手をあげて喜んでおるとは思うが」
「何から何まで……本当に感謝します」
今後について確認していると、何やら市場の方が騒がしい。
「な、なんだ?」
トアたちがそちらへ向かうと、
「トアが妊娠したというのは事実か!?」
エドガーとミリアに取り押さえられながら、ひどく狼狽するクレイブの姿があった。
「落ち着け、クレイブ!」
「そうですよ、お兄様! トア・マクレイグは男なので妊娠しません!」
「そうよ! 大体なんで男のトアが妊娠したってことになっているのよ! 妊娠するならトア本人じゃなくて私たちの方でしょ!」
「クラーラ様、さりげなくとんでもないこと言ってますよ」
どうやら、またクレイブが勘違いをして暴れているようだ。
「やれやれ、しょうがないのぅ」
「あははは……」
「ふふふ、こんなに楽しい要塞村を離れるのは本当に寂しいです」
メリッサは名残惜しいそう言った。
それからすぐに、オーレムの森から使いのエルフがやってきた。
クラーラとマフレナを護衛に、セドリックとルイスも加わって一旦オーレムの森へと里帰りし、赤ん坊が無事に生まれたら、要塞村に戻ってくることで決まった。
出産の予定は次の初春。
その日を楽しみに、要塞村のエルフたちは今日も仕事に精を出す。
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