第338話 秋の悲劇とサプライズ?
収穫祭が近づくと、要塞村はにわかに騒がしくなりつつあった。
というのも、今年の収穫祭は前年度に比べるとその規模が圧倒的に違う。
要因は主にふたつ。
ひとつは要塞村市場の存在。
世界にその名を轟かせるホールトン商会の幹部ナタリー・ホールトンが責任者として任されているそこには、多くの商人たちが店を構えている。
そんな彼女たちが、このビッグイベントを見逃すはずがない。
早速、トア村長から許可を得たナタリーは、商人たちを集めて綿密な計画を練り始めた。とはいえ、開催まであまり時間が残されていないため、今回は抑え気味になるそうだが、これに対してナタリーは、
「今年はやれる範囲で全力を尽くすけど、来年までの一年……たっぷりと時間をかけてより素晴らしいモノにするわ」
と、すでに一年後へ向けて意欲満々だった。
もうひとつの要因は王家との関わりだ。
これが昨年との一番の違いだろう。
すでに収穫祭の開催はバーノン第一王子に通達済み。
王子は祭りへの参加に乗り気で、ヒノモト王国へと渡ったジェフリー王子にも声をかけると張り切っている。そして、王子三兄弟の次男であり、要塞村の村医として村の一員となっているケイスは、兄や弟の参加を楽しみしていた。
各々が収穫祭に向けた準備を進める中、第一回から参加している古参組は神樹に飾るランプ作りのための木材集めに屋台の設営準備と、慣れた手際で着々と進めていった。
その日、要塞村の厨房にはフォルの姿があった。
「あれ? フォル、どうしたんだ?」
「どっか故障でもしたの?」
要塞内の点検のため、たまたま厨房へ立ち寄ったトアとクラーラが立ち尽くしているフォルへと声をかける。
「実は、今度の収穫祭でどんな料理を振る舞おうか悩んでいまして」
「ああ、屋台で配るヤツね」
「今年はデザートにしようという構想はあるのですが……」
「それでこんなにたくさんフルーツがあるのね」
フォルの目の前――厨房にあるテーブルの上には、秋に旬を迎える果物がズラリと並んでいた。これらはすべて要塞村農場を管理している大地の精霊たちから提供されたものだ。
「いろいろと試作品を作っていこうと思うのですが……味を判定してくださる試食人が――」
「仕方がないわね。私がやるわ」
食い気味に、クラーラが立候補した。
「おお! 引き受けてくれますか、クラーラ様!」
「これも同じ要塞村に住む仲間のためよ!」
――と、言いつつ、クラーラの視線はテーブルに並んだ食材に向けられていた。
「……なんか、オチが読める」
引きつった笑みを浮かべながら、トアはそう呟くのだった。
結論から言うと、トアの予感は的中した。
フォルの作るおいしくて甘い、秋の味覚をふんだんに使用したデザートの数々。
この魅力に勝てる女子は少なく、ほとんどの食後にデザートを堪能。
それはやがて「体重増加」という悪夢をもたらしたのだった。
「去年とまったく同じ流れじゃないか……」
「それほど、甘い物は女性を虜にするのですよ」
◇◇◇
要塞村女子の間で体重増加が問題視され始めた頃。
村医ケイスの診療所にひとりの患者がやってくる。
「言っておくけど、あたしの診療所ではお手軽ダイエットの類をやっていないわよ? 食べ過ぎて体重が増えたなら、アシュリーみたく運動しながら健康的に痩せないと」
ケイスの助手として診療所で働く冥鳥族のアシュリーも、秋の味覚の被害者だった。
「い、いえ、今日お訪ねしたのはその件じゃないんです」
診療所に診察を依頼してきたのは――双子エルフの姉であるメリッサだった。
体調が優れないというメリッサに、ケイスは問診を行った。それを終えると、魔力を使用してメリッサの全身をくまなく診察していく。
やがて、ケイスの表情が変わる。
「これは……」
顎に手を添えて、何やら考え込むケイス。
そして、
「ねぇ、メリッサ」
「はい?」
「ご家族はオーレムの森に?」
「い、います」
「そう……分かったわ。すぐに使いを送って連絡する。あなたはここで休んでいなさい。ああそうだ。奥のベッドが空いているから、辛かったら横になるといいわ」
「えっ? えっ?」
何やら慌ただしい様子のケイス。
不安になるメリッサは、思わず尋ねた。
「あ、あの、私……重い病気なのでしょうか?」
「そうじゃないわ。安心して。あなたは――」
ケイスがメリッサへ診察の結果を伝える。
すると、
「嘘……」
メリッサは思わず涙を流した。
「分かったのなら、少し休みなさい。トア村長への報告やオーレムの森への通達は、あたしがやっておくから」
「ありがとうございます……」
ケイスの言葉に甘えることとしたメリッサは、そのまま診療所のベッドへ横になった。
それから、ケイスはこの事態をトアへ知らせるため、要塞内部へと歩きだしたのだった。
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