第335話 楽しい清掃活動
※次回は9月2日(水)更新予定!
記録的な猛暑となった今年のストリア大陸。
晩夏を迎え、暑さは日に日に和らぎつつあるが、その熱さは各地で農作物の収穫に多大な影響を与えていた。
しかし、そうした自然現象に対し、セリウス王国は食料不足になる心配はないという見通しを立てている。
その最大の要因となっているのが要塞村の存在だ。
各地域で収穫量が減っている農作物も、大地の精霊がいる要塞村には関係なし。要塞村市場には今日も野菜を求めて多くの商人や遠方からわざわざ買いに来た一般人などでごった返していた。
事態を重く見たセリウス国王は、第一王子であるバーノンを通して要塞村に協力を要請。野菜の一部を買い上げて、食糧難に陥っている周辺地域に配った。
その結果、要塞村の知名度はこの夏を通してさらに広まり、数多の伝説的種族が共存しているその村は一種の理想郷のような形で伝わることになった。
◇◇◇
「さて、それじゃあ始めようか」
この日、トアは村民たちと共にある場所を訪れていた。
それは、エノドアと要塞村を結ぶ整備された道路。
夏の間ずっと放置されてきたそこは、雑草などで荒れ放題だったし、市場ができたことで交通量が増加し、それに伴ってゴミを捨てるなどの行為も現れ始めていた。
雑草刈りやゴミ拾いだけでなく、ルーシーたち人魚族には近辺の川底にあるゴミの回収をお願いする。
「たまにはこうして清掃作業しないとね」
「わふっ! みんなが使いやすいよう綺麗にしないとですね!」
まだまだ暑さは残っているが、クラーラとマフレナはそれに負けないくらい元気だった。
「エステル、無理はしなくていいからね」
「そうですよ。私たちに任せてください」
「ありがとう。でも、やっぱり自分の住んでいる村のことだから、無理のない範囲で手伝わせてもらうわ」
暑さで若干バテ気味のエステルを気遣うトアとジャネットだが、エステルはこの清掃活動をやり遂げようと気合十分。
「エノドア側からも清掃活動を行ってくれているから、ちょうど真ん中にある橋のところまで雑草やゴミを処分していこう」
「「「「「おおおおおおおおお!!!!」」」」」
まるで戦場に向かう兵士のような意気込みで、要塞村とエノドアによる大規模な草刈は始まった。
「って、結構な量ね……」
額の汗を拭いながら、クラーラが呟く。
「クラーラ様、水分補給はこまめに取るようにしてください」
「そうね。この暑さじゃ――」
水分補給係を務めるフォルからドリンクの入った水筒を受け取ろうとしたクラーラの手が止まる。
「まさか……この前の変な飲み物じゃないわよね?」
「安心してください。普通のドリンクですから」
「それならいただくわ」
「体調に異変がある人はあっちにテントがあるので、そっちで休憩してくださいね」
「うむ! いつでも休憩に来るがよい」
大きな木の下にできた日陰部分にテントを設営し、体調不良者はそこで休憩することができるようになっている。ちなみに、管理者はローザだ。
こうして、休憩をはさみながら目的地の橋までたどり着くと、ちょうどエノドアの住人たちも到着した。
「トア村長、お疲れ様」
「レナード町長! お疲れ様です」
先頭にいた、エノドア町長レナード・ファグナスに挨拶をするトア。このレナードこそ、今回の清掃活動の発案者のひとりだった(もうひとりはトア)。
「暑かったけど、自分たちの手で綺麗にしていくってのはいい体験だったよな」
「部屋の掃除とは訳が違うものね」
「ええ、新しい発見もあってとても楽しかったです!」
「お兄様……大丈夫……ですか……?」
「むしろミリアが平気か?」
エノドア自警団のメンバー(エドガー、ネリス、タマキ、ミリア、クレイブ)である五人も集結。さらに、自警団長のジェンソンと副団長のヘルミーナ、そして鉱夫たちをまとめる鉱夫長のシュルツなど、こちらも大勢の人が集まっているようだ。
ゴミを片付け終わると、宴会の準備に取りかかる。
今回は合流した橋の近く――川辺でのバーベキューとなった。
「「「「「イエーイ!」」」」」
要塞村とエノドアの両住人はバーベキューを楽しみつつ、酒飲み組は持ち寄ったさまざまな種類の酒を飲んでいた。
「それにしても、本当に住人が増えたね、要塞村は」
「ありがたい限りですよ」
レナードとトアは共に両町村のこれからについて語っていたが、途中、エステルやクラーラに連れらえて女子四人の輪へと連行される。
「相変わらずモテるわねぇ、トアは」
「あやかりてぇよ!」
「エドガー殿……」
「トアを想う者たちの集い、か。――どれ、俺も混ざってくるとするか」
「お兄様!?」
エノドア自警団の五人も楽しんでいるようだ。
こうして、要塞村とエノドアの交流を兼ねた清掃活動は大成功に終わったのだった。
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