第336話 第3回要塞村収穫祭【準備編】

 夏の暑さもピークを過ぎ、徐々に秋の気配が漂い始めた要塞村。


「マスター、そろそろアレの時期ですね」

「アレ? ……ああ、アレか」


 大地の精霊たちが管理する農園で、村の子どもたちと共に収穫の手伝いをしていたトアとフォルは、本格的な秋が近づいていることで今や定番となっているあのイベントを思い出したのだった。


「第三回要塞村収穫祭、か」

「収穫祭?」

「それって、なんでありますか?」


 陸上活動用に魔法で足を生やした人魚族のルーシーと、魔界からやってきたメディーナ。トアやフォルと一緒に初めての農作業に精を出していたふたりにとっては初めてとなる要塞村収穫祭。

 一方、すでに第一回と第二回を経験している村の子どもたちやリディスをはじめとする大地の精霊たちは「もうそんな季節なのか」と時の流れの速さにしみじみとしていた。


 トアはルーシーとメディーナに収穫祭の内容を簡単に説明。すると、ふたりは瞳を輝かせながら「いつやりますか!?」と前傾姿勢で迫られた。日程などはこれから決めるよ、とトアは興奮するふたりをなだめるのだった。


その後、収穫したばかりの野菜がたくさん詰まった籠をキッチンへと運びながら、トアとフォルはこの一年間を振り返る。


「去年の収穫祭って、確かアネスが攻めてきた時だったよね」

「植物城には驚かされました」

「その後、クラーラが子どもになったり、フォルが動かなくなったりもしたなぁ」

「あれにはさすがの僕も焦りましたよ」

「ケイスさんやバーノン王子、それにジェフリー王子……王家の人たちともたくさん話をしたなぁ」

「メディーナ様やルーシー様もそうですが、クラーラ様の母親であるリーゼ様や、クレイブ様の妹のミリア様、そしてシスター・メリンカ様と子どもたちと、たくさんの新しい仲間が増えましたね」

 


「何? ふたりともニヤニヤしちゃって」

「わふっ? 楽しい話でもしていたのですか?」


 外での鍛錬をし終えて村へと戻って来たクラーラとマフレナが声をかけてきたので、トアは第三回収穫祭を計画していることについて説明した。


「あっ! そういえばもうそんな季節ね!」

「わふっ! 今年も楽しみです!」

「えっ? 何? 何が楽しみなの?」

「私も気になりますね」


 そこへ、工房から出てきたエステルとジャネットも合流。結局、いつものメンツで収穫祭についてのアイディアを出し合うことにした。




 場所を円卓の間に移し、トアと四人の少女たち、そしてフォルの六人で収穫祭の大まかな内容を黒板へ書きだしていく。


「今年は市場もあるし、これまでにない規模になりそうだな」

「ファグナス様にも知らせないとね」

「ケイスさんがいらっしゃるので、もしかしたら王家の方もいらっしゃったり?」


 ジャネットの口にした心配事については、トアも同意見だった。チェイス・ファグナスが来た時も、警備的な意味で緊張したが、バーノン王子をはじめとする王家の人たちが参加するとなったらとんでもないことになりそうだ。今や村医として存在感を示している元第二王子ケイスの存在がある限り、まったくないとも言い切れない。


 さらに今年はグウィン族や獣人族など、近隣で新たに生活している人々の参加も見込まれるし、オーレムの森のエルフ、鋼の山のドワーフ、カオム島の人魚族、さらにエノドアやパーベルという長い付き合いのある町も当然参加してくる。


「……これ、今年とんでもない規模になるんじゃない?」

「市場を管理しているナタリーさんはこういうお祭り騒ぎ好きだし……ホールトン商会が本腰を入れて参加するってなったら確かに凄いことになりそうね」


 エステルが表情を強張らせながら言う。

 その時、円卓の間の扉が力強く開け放たれた。



「すべて聞かせてもらったわ!!」



 現れたのはナタリーだった。


「水臭いじゃないの! そんなビッグイベントがあることを秘密にしていたなんて!」

「あ、いや、秘密にしていたわけじゃ――」

「お姉さんに任せなさい! 必要な物はなんでも揃えちゃうわ!!」


 のっけからボルテージ最高潮のナタリー。

 その騒ぎを聞きつけた銀狼族のジンや王虎族のゼルエス、冥鳥族のエイデンにオークのメルビン、そして八極のローザやシャウナも合流し、それぞれ今年の収穫祭に向けた要望を口にしていた。


「やれやれ……今年はとんでもないことになりそうだな」

「そうですね」

「でも、楽しみなのは間違いないわね!」

「わふっ! その通りです!」

「早速明日からいろいろと準備を始めましょうか!」

「張り切りすぎないようにね、ジャネット」


 それぞれの思いがぎっしり詰まった第三回要塞村収穫祭。

 その規模は、過去二年を遥かに凌駕するとんでもないものとなりそうな予感がしていた。

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