第314話 すべての黒幕
クレイブの妹――ミリア・ストナーがやってきたことは、パーベルからの使者が来たその日のうちにすべての村民へ知れ渡ることになった。
魔人族のメディーナや人魚族のルーシーのように、まだ村の一員となって日の浅い者にとっては関わりの薄いクレイブだが、銀狼族や王虎族、それにモンスター組といったあたりはもう長い付き合いなので、どこか感慨深げなリアクションが目立った。
そんな中、ミリアに関して、要塞村のとある人物との意外な接点が発覚する。
お互い、最初こそ気づかなかったが、実は以前、某所で行われた同人即売会で意気投合していたのだ。
「まさかこんな形でジャネットさんとまた会えるなんて!」
「本当ですね!」
ふたりは手を取り合って再会を喜んだ。
最愛の兄クレイブと再会した直後のミリアははとても喜んでいた。
しかし、その心の奥底には、まだ解決の糸口さえ見つからない、家やら国家の問題がチラつき、さらに、アーストン高原の際には敵として対峙したこともあってか、以前はとても親しくしていたエステルやネリスに対しても、どこか一歩引いた態度を取っていた。
そんな中でのジャネットとの再会。
これが、ミリアにとって好影響を与えた。
フェルネンド王国や聖騎隊、ストナー家との関連は一切なく、共通の趣味を持つ者として知り合ったということで心置きなく話すことができたのだ。
ジャネットも、トアから情報を得て、ミリアがこれまでどのような事態に陥っていたのかを聞き、少しでも力になれれば、と毎日エノドア自警団のもとを訪れた。
その甲斐もあって、ミリアは少しずつ元気を取り戻していったのである。
現在、バーノン王子からの返事待ちだが、ミリアのエノドア移住が認められたら、要塞村図書館へ案内すると約束し、ふたりはその日を心待ちにしていた。
◇◇◇
「それは願ってもない展開だったわねぇ」
「はい。ミリアは順調に回復しているようで……これもジャネットのおかげです」
この日、トアは要塞村の診療所を訪れていた。
目的は、要塞村の専属村医であり、バーノンの王子の弟でセリウス王国第二王子であるケイスに、ミリアの処遇についての進捗状況を尋ねるためだった。
すでにセリウス王家から離れ、村医として生きていくと誓ったケイスだが、王国内における影響力は未だ強く、彼のもとに王国絡みの情報が寄せられることもしばしばあった。
今回のミリアの件については、バーノンに一任されているが、さすがに現在緊張状態にあるフェルネンド王国の、それも聖騎隊の一員であり、しかも大隊長ジャック・ストナーの娘という血縁関係も、ミリアの移住がすんなりと許可されない理由となっていた。
とはいえ、セリウス王家から絶大な信頼を得ている要塞村の村長トアが、ミリア絡みの案件について責任を持つと宣言しているため、反対派を黙らせるのにさほど時間はかからないだろうとケイスは見立てていた。
――だが、不安要素がまったくないといえば嘘になる。
「セリウス王国は、フェルネンドの背後に潜む影に怯えているのよ」
「影?」
「ほら、ルーシーちゃんたち人魚族を襲った、あの組織よ」
「……カラスのタトゥーをしたメンバーで構成された商会ですね」
一部では、その商会がフェルネンド王国に接触し、今同盟を結んでいる国との橋渡し的な役割をしているのではないかと噂が出ていた。
「まだ決定的な証拠は出ていないけど、これはほぼ決まりだと思うわ」
「その組織は……セリウスとフェルネンドがぶつかり合うことを望んでいる……?」
「きっとそうだと思うわ。何しろ、あいつらの本業は武器商人らしいから」
どうやら、人魚族の住むカオム島を襲撃したり、ヘルミーナを騙して魔鉱石を盗み取ろうとした組織の正体は、違法に武器を売買する武器商人たちによる組織らしかった。
「世界中を戦争に巻き込もうとする厄介な連中ね」
「そんなの……」
トアはギュッと拳を握った。
ケイスにもたらされた情報の中には、フェルネンド王国が狂い始めた元凶――ディオニス・コルナルドは、この組織とつながりがあったというものもあった。
それが本当なら――トアは思わず立ち上がる。
「……俺は、戦闘に加担しようとは思いません。でも、そいつらがもしこの村を狙ってきたなら――」
「思う存分、相手をしてやればいいわ」
ケイスの言葉に、トアは静かに頷いた。
要塞村を守るための戦い。
できれば、そんな事態になってほしくないと願いつつ、有事に備えて鍛錬を怠らないようにしなくては、と胸に誓うのだった。
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