第315話 初めての要塞村

 ジャネットとの劇的な再会を経て、ようやく元気を取り戻し始めたミリア。

 

 ある日、ジャネットからの提案で、ミリアを要塞村へと招待することとなった。 

 とはいえ、ミリアは緊張状態が続いているフェルネンド王国の聖騎隊に所属していた人間――そう簡単に外出の許可が下りるわけもない。

 そこで、トアとレナードの両村長が、領主チェイス・ファグナスへ直談判に向かった。その結果、監視役を数人同行させることでようやく許可が下りたのである。




「お兄様! こっちですわ!」

「落ち着け、ミリア。そんなに慌てなくても、要塞村は逃げたりなんかしないぞ」

「ジャネットとの再会がここまで好影響を与えるなんてねぇ……」

「思えば、あいつは重度のブラコンで同期に仲の良い子がいなかったからなぁ……俺たちとは先輩後輩って間柄の方が強くありそうだし、それこそ、生まれて初めての友だちになるんじゃないか?」


 エノドア町長レナードからミリアの監視役として任命されたクレイブ、ミリア、エドガーの三人も、要塞村を訪れていた。


「あ、あの大きな木は一体なんですか!?」

「あれは神樹ヴェキラだ」

「! し、神樹ヴェキラって……てっきり空想上の存在だとばかり……って! その横で寝ているあの大きなドラゴンは!?」

「要塞村の守護竜シロだ。ちなみに、母親はおまえも会ったことがあるマフレナだ」

「あの銀狼族のおっぱい大きい子がドラゴンの母親!?!?」


 度重なる衝撃事実の発覚に、だんだんミリアの言葉遣いがおかしくなっていく。


「ま、まあ、とりあえず、いろいろと見て回ろうや。

 これ以上やると人格破壊になりかねないと思ったエドガーが話題を変える。それに、ネリスも乗ってきた。

「まずは市場から見ていく?」

「えっ? 市場なんてあるんですか?」

「うちの姉貴――ああ、ナタリー姉貴が中心になって、大陸から選りすぐりの商人たちがここで商売をやっているんだよ」

「うわっ! 本当ですね……フェルネンドと取引があった人も何人かいます」


 最初にミリアたちが訪れたのは要塞村市場。

 エノドアやパーベルから毎日のように多くの客が押し寄せ、最近では遠方から泊まり込みでやってくる者もいるくらい賑わっていた。


「ま、まるで一国の王都並みの賑わい……とても村の規模とは思えません」

「ああ……言われてみればそうかもな」

「そうねぇ」

「……先輩方、反応が薄くありませんか?」


 それは仕方のないことだった。

 エドガーやネリスは、要塞村がここまで発展する以前からこの場所をよく知っている。なので、発展していく敬意を間近に見続けてきたため、あまり衝撃はなかったのだ。

 一方、村と聞いていたのにとんでもなく発展している要塞村を見たミリアの衝撃は凄まじかった。下手をすれば、王都レベルに賑わい、活気に満ちているその光景は、とてもひとつの村とは思えなかった。


 さらにネリスを驚かせたのが、市場を歩く種族の多さだ。

 銀狼族や王虎族といった獣人族をはじめ、エルフやドワーフなど、普通の町ではまず見かけない種族が多く見られた。

 彼らは村民である他、鋼の山だったり、オーレムの森だったり、さまざまな場所からこの要塞村へとやってきていた。

 これもまた、村長であるトアの人望が成せることだ。


「トア・マクレイグ……」


 ちょうどその時、ミリアの視界にトアが映った。


 幼馴染のエステル。

 エルフ族のクラーラ。

 ドワーフ族のジャネット。

 銀狼族のマフレナ。


 四人の可愛い女の子に囲まれながらも、トアは変わらず、いつもの調子で接しているようだった。

 

「…………」

「どうした? お、ジャネットいたじゃないか」

「はい……でも、とてもいい感じなので、声をかけづらくて」

「ああ、確かにねぇ。ふふ、いつも変わらず仲の良いい五人ね」

「……こじれたりしないんですかね」


 ボソッと呟くミリア。

 だが、エドガーとネリスは「ははは」と小さく笑ってその疑問を一蹴した。


「あの六人は、あれでいいんだ」

「そうね。あれでいいのよ」


 なんの具体性もない言葉だったが、なぜか妙な説得力を感じた。

 何より、言われた直後、ミリア自身が「そうかも」と納得しかけた。


「……はい。――うん? 六人?」


 その時、エドガーの発言にミリアは違和感を覚える。

 人数は全員で五人のはずだ。

 改めて、トアたちの方へ視線を向けると、


「!? いつの間にか、しれっとお兄様があの輪の中に飛び込んでいます!?」

「あいつ!? なに自然な流れで紛れ込んでんだ!?」

「……回収に行くわよ、エドガー」

「おうよ!」

「やっぱり許せない……トア・マクレイグ! 覚悟ぉ!」


 今日も要塞村には賑やかな時が流れていた。

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