第312話 ミリアとクレイブ
エノドアにトア、エステル、クレイブ、エドガー、ネリス、そしてヘルミーナという、元聖騎隊メンバーが勢揃いした。
目的はただひとつ――パーベルで保護されているクレイブの妹のミリアに会うためだ。
プレストンが率いていた部隊の一員として、アーストン高原に姿を見せたミリアとはその後会っていないが、まさかパーベルに現れるとは、誰もまったく予想していなかった。
しかし、パーベルからの使者の話では、ミリア自身はかなり憔悴しており、弱っていたと報告を受けている。
その時、トアの脳裏によぎったのはアーストン高原でのグウィン族絡みの件だった。
聖騎隊は聖鉱石が埋まる場所を特定できるという特殊能力があるグウィン族を欲していたようだが、偶然居合わせたトアたちが追っ払ったため、プレストンたちは任務失敗という扱いを受けたはず。
その影響で、聖騎隊を追われたのではないか。
パーベルへ向かう途中、トアの脳裏にはそんな考えがよぎる。その他にも何か理由として考えられるものはないか、頭をフル回転させているうちに、目的地であるパーベルの診療所へ到着した。
「お待ちしておりました」
町長秘書のマリアムに案内され、診療所の一室を訪ねる。
すでに町長のヘクターと港湾警備隊の一員で、聖騎隊に所属していた過去を持つジャンが室内にいた。
部屋の中央には、ふたりに囲まれる形でベッドが存在しており、そのベッドにいる少女こそ――今回の騒ぎの中心人物であるミリアだった。
「ミリア!」
「! お、お兄様!」
ミリアは意識を取り戻しており、駆け寄ってきた兄クレイブを強く抱きしめると、それまで抑えていた感情が爆発し、大号泣。
それが落ち着くまで、トアたちは何も話さず、ただふたりの兄妹を見守っていた。
数分後。
「ご心配をおかけしました……」
ひとしきり泣いた後、ミリアはペコリと頭を下げた。
「よかった。思ったより元気そうで」
「エステル先輩……」
「ええ。安心したわ」
「ネリス先輩……」
「まったくだぜ。相当ヤバいことになっていると思いきや、そうでもなさそうじゃねぇか」
「どちら様ですか?」
「おい!」
懐かしいやりとりに、思わず周りから笑みがこぼれた。
「ミリア・ストナーよ。君はなぜパーベルで倒れていたのだ?」
落ち着いたところで、ヘルミーナがそう切り出した。すると、ミリアの視線がトアへと注がれる。
「……私たちはアーストン高原での任務に失敗しました。――いえ、あれだけが直接の原因というわけではなく、それ以前にも何度か失敗があったので、積み重なった結果が今の私の立ち位置なのでしょう」
「失敗って……ミリアは優秀だったじゃないか」
トアがそう言うと、ミリアはひとつため息をついた。
「割とあなた絡みの失敗が多いのですけどね。シスター・メリンカの子どもたちの国外逃亡を止められなかったり、とか」
「ああ……」
そんなこともあったなぁ、とトアは今思い出した。
「ともかく、度重なる失敗を招いた結果、私は……聖騎隊を……」
涙ぐみ、そこから先は話せなくなったミリア。
トアたちも、今の状態のミリアからそれ以上の情報を引っ張り出そうとするのは難しいだろうと判断し、この場は一旦お開きにしようとしたが、
「父上は何と言っていた?」
クレイブは質問を続けた。
兄だからこそ、妹のミリアに踏み込んだ質問をぶつけられるのだろう――だが、その質問に対し、ミリアから返ってきたのは意外な言葉だった。
「聖騎隊を辞めさせたのは……お父様の意向です」
「!? バカな……」
幼い頃から、クレイブと同じように英才教育を受けて育ったミリア。
時に厳しく、しかし確かな優しさが存在した父の教育。
そのミリアに対する愛情は、間違いなく本物であった。
だが、その父がミリアを勘当した。
「……ミリア。今の父上は、俺たちが小さな頃から知っている父上ではない」
「私もそう思います」
兄と妹は、父の変化を感じ取っていた。
「ここ最近のお父様は、富と地位を守ることにばかり執着している様子でした」
俯きながら、ミリアはそう語る。
先ほどの大号泣と今の告白――いずれも、トアにはこちらを騙そうとしている演技に思えなかった。そのような意図はなく、純粋に困っているようにしか映らなかった。
ミリア・ストナーの処遇について、すぐに結論は出なかった。
というのも、現在、領主チェイス・ファグナスとバーノン第三王子がセリウス城で協議を行っているらしく、状況次第ではトアやクレイブにも呼び出しがかかるかもしれないとヘクター町長から告げられた。
どちらも呼び出しにはすぐに応じる構えで、チェイスやバーノン王子にありのままを話すと誓った。
その間、ミリアは兄クレイブのいるエノドアの診療所へと移され、しばし待機状態ということとなったのである。
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