第309話 バーノン王子への報告と鉄道調査
新たに人魚族たちが要塞村のメンバーとして加わった。
大雨の影響で要塞村に避難していたグウィン族と獣人族たちも、ここ数日は晴れが続いたこともあり、川の水量も減ってきたことを考慮してそれぞれの村へと戻ることになった。
ただ、その被害は決して少ないものではなく、特に獣人族の村では住居がほとんど壊滅状態であり、復興するにはかなりの時間を要する。
そのため、人魚族の住居を造り終えたばかりのドワーフたちが立て続けにそちらの復興作業も手伝うこととなった。
連続の作業にトアはドワーフたちの体調を気遣ったが、困っている獣人族を放ってはおけないということと、彼らは物作りを生きがいにしているため、以前よりもいい家を建てるとむしろ意気込んでいた。
というわけで、ジャネットとフォルを中心にしたドワーフ族たちは、しばらくの間、仕事場を獣人族の村に移して復興作業に勤しむこととなった。
一方、村長トアは人魚族加入の事実を領主チェイス・ファグナスに報告し、さらには村医ケイスの兄で次期セリウス国王最有力候補とされるバーノン王子にも事の顛末を報告するため、守護竜シロの背に乗って単身セリウス城へと向かった。
実はすでに何度もシロに乗ってセリウス城へやってきているトア。
そのため、巨大なドラゴンが現れても、城の兵や王都の民たちはまったく動じる様子を見せず、「要塞村の村長が来たか」程度のリアクションだった。
セリウス城の中庭に降り立つと、すぐさま兵士たちがやってくる。
「トア村長、本日はどのようなご用件でしょうか」
「バーノン王子に会いたいんですけど……お城にいますか?」
「本日は外出の御予定がなかったはずなので、今は自室で執務をなさっているかと」
「分かりました」
とりあえず、城内にバーノン王子はいるそうなので、声をかけてみることにする。
「じゃあ、シロ。ちょっと話をしに行って来るから、大人しくしているんだぞ」
「グワァッ!」
シロの顔を撫でながら、トアがそう告げると、シロはその場に座り込む。それを見て、使用人や兵士が集まってくる。今やシロはちょっとした人気者であった。
舞踏会で訪れて以降も何度かセリウス城へはやってきているので、すでにその内部構造をトアはしっかりと把握していた。そのため、誰に案内されなくとも、バーノンの自室兼執務室への道順は頭に入っている。
すれ違う兵士や使用人たちからも挨拶をされるくらいには、この城にも慣れていた。
しばらく進み、ようやくバーノンの部屋へと到着。
ノックをして、返事があってから、「要塞村のトアです」と名乗り、用件を簡単に伝える。
「入ってくれ」
バーノンがそう答えてから、トアは扉を開けて室内へと足を踏み入れる。
「人魚族を新しく村人として迎え入れただって? 相変わらず凄いな、君の村は」
書類仕事が立て込んでいたらしいバーノンだったが、ちょうど休憩をしようと考えていたらしく、トアから人魚族たちの暮らすカオム島での土産話を興味深げに聞き入っていた。
中でも特にバーノンが関心を持った事項がふたつある。
ひとつは海淵のガイエルについて。
「八極と肩を並べる実力があるとされる海淵のガイエルと……」
「とてもいい人でしたよ」
「いやいや、普通の人間だったら恐ろしくて震えあがりそうなものだが……本当に君の度胸には驚かされるよ」
そのガイエルに認められたから、人魚族たちの移住が決まった――これはかなり凄いことなのだが、当のトアにはあまりその自覚がなかった。
そして、バーノンが関心を持ったもうひとつの話題が――カオム島を襲った謎の商会について。
「実はそういった連中が暗躍しているという報告は上がってきている。――が、まったくもってその全容が掴めない状況だ」
「そうなんですか……」
「ホールトン商会にも依頼して、詳細な情報を集めてもらっている最中だがな」
エドガーの父であるスティーブ・ホールトンが代表を務めるホールトン商会。間違いなく成果でトップの商会が行方を追っているとなれば、真相が明るみに出てくるのも時間の問題だろう。
「まあ、それについては今後の調査次第というわけだが……それより」
バーノンは手をパンと叩き、話題を切り替えた。
「以前話していた、屍の森の鉄道についてだが」
獣人族の村近くで見つけた、帝国時代に使用されていたと思われる鉄道。バーノンは以前からこの鉄道に強い関心を抱いており、近々本格的な運用を行えないか、調査すると言っていたのだが、
「ファグナスにも話そうと思っていたのだが……約一ヶ月後、大規模な調査団をあの森へ送るつもりでいる」
「おおっ! いよいよ鉄道運用を本格化するんですね!」
これについてはトアも興味があった。
「うむ。また君たちの世話になるかもしれないが……頼めるか?」
「喜んで!」
トアは笑顔でバーノンからの依頼を承諾する。
屍の森に眠る鉄道。
その復活は近い将来訪れそうだ。
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