第308話 新たな仲間たち
早速、人魚族の住む部屋を造るため、要塞村の大改装が行われていた。
ガイエルの提案により、要塞村へ移住するのは、ルーシーやデイロのように魔力を使用してヒレを人間の足に変化させることができる者のみとなった。
部屋の構造としては、巨大な水槽をイメージしており、それに合わせて資材の調達や部屋の強度を上げるなど、さまざまな作業が必要となる。
だが、そこはこれまでさまざまな建築物を手掛けてきた要塞村のドワーフたち。ジャネットを中心とした精鋭たちによって、建造は着々と進行していったのである。
まず、人魚族たちにとって命とも言える水は、神樹の根が浸かる地底湖の水――村民から聖水と呼ばれている水を使用することとなった。その水も、エノドア産の魔鉱石を使用し、常に綺麗なものへと変えられるよう、循環できるシステムを新しく構築。さらに、人魚族の村で一般的に使われている家具も、細部にこだわり忠実に再現した。
ジャネットたちによって進められた人魚族の部屋造り。
いろいろと張り切って作業をし、当初よりも規模は大きくなったが、完成したのはわずか一週間後というスピードだった。
「これでいつでも彼女たちを迎え入れることができますよ!」
ジャネットからのGOサインを受けて、トアは早速使い(ローザの使い魔)をカオム島へ向けて送り込んだのだった。
◇◇◇
完成したという知らせを人魚族の村へ送ってから三日後。
「トア村長~♪」
メルビンたちモンスター組と一緒に、キシュト川で漁をしていたトアへ、人魚族のルーシーが声をかけた。
「やあ、ルーシー。到着したのか」
「はい! 選び抜かれた人魚族総勢十一名が新たに要塞村の一員となります!」
「じゃあ、早速案内するよ。陸に上がれるかい?」
「お任せを!」
ルーシーが他の人魚族にトアからの指示を伝え、やってきた全員がヒレを足に変化させて陸へと上がった。ちなみに、総勢十一名とのことだったが、その内訳は男性が五人に女性が六人であった。
漁の仕事をメルビンたちに任せ、トアは人魚族と共に要塞村へと向かう。
到着すると、まずはその場にいる村民たちを集め、人魚族を紹介。その後、ジャネットたち建築に携わったドワーフたちを集めて、部屋の場所を教えた。
「す、凄いです!」
部屋を目の当たりにしたルーシーをはじめとする人魚族たちからは歓声があがった。それほどまでに、ジャネットたちドワーフ族の造った人魚族の部屋は快適かつ便利な構造となっていたのである。
特筆すべきは、各部屋が二種構造となっている点。つまり、水中生活用と地上生活用のふたつのスペースが、一室ごとに完備されているところだった。これは、ルーシーの「地上での生活にも憧れているんですよ」という言葉を受けて造られたものだった。
「い、いいんですか……こんなに凄いお部屋を」
「もちろんだよ」
「自由に使ってください」
トアとジャネットは笑顔で伝える。
それを受けて、人魚族たちは早速それぞれ自分の部屋を決めると、中に入って持ってきた荷物の整理やコーディネートを始めていった。
「気に入ってもらえたようで何よりだよ」
「気に入るも何も……素敵すぎますよ~!!」
感激に打ち震えるルーシー。
その反応を見て、ジャネットたちドワーフはハイタッチを交わす。トアとしても、人魚族たちが思ったよりも早く馴染めそうでよかったと胸を撫で下ろした。
と、そこへ、ドタドタと勢いよくこちらへ走ってくる足音が聞こえてくる。
「「「村長!!」」」
やってきたのは銀狼族、王虎族、冥鳥族のリーダーを務めるジン、ゼルエス、エイデンの親父トリオだった。
「ど、どうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、人魚族が到着したと聞いてな!」
「新たな仲間が加わるのならば、今日の夜は歓迎会を開かねば!」
「そのために酒を調達してこようと思って!」
三人は捲し立てるように言うが、要約すると飲んで食って騒ぎたいということらしい。もちろん、トアも歓迎会は計画していたので、いつ人魚族が来てもいいようにと要塞村の厨房を預けているフォルに伝えてはいた。
料理は問題ない。
あとは会場づくりと酒の用意くらいだ。
「では、お酒の調達はお任せしても――」
「「「任せてくれ!」」」
食い気味にサムズアップをして、三人はすぐさま酒を調達すべく活動を開始。
「す、凄い行動力ですね……」
「あははは……」
その場に残されたトアとジャネットは呆れたように笑う。
こうして、要塞村に新たな仲間――人魚族(十一名)が加わったのであった。
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