第303話 カオム島の戦い

「なんだぁ、てめぇらは」


 デイロへ斬りかかろうとした男が、トアたちへにらみを利かせる。

 だが、当のトアは怯む様子もなく、聖剣を構えた。


「おいおい、俺たちとやろうっていうのか?」


 武器を構える男たち。

 ――よく見ると、最初の頃よりも数が増えていた。騒ぎを聞きつけ、近くに潜んでいた者たちまで集まって来たのだろう。その数はざっと見積もって三十人を超えていた。


「ぞろぞろと集まって来たわね」


 クラーラは愛用の大剣を抜き、ヤル気満々だ。

 さらに、ローザとフォルも魔力を練り、臨戦態勢を整えた。


「だ、ダメだ……すぐに逃げるんだ……」


 傷ついたデイロは、トアたちにすぐ逃げるよう伝える。噂に聞く要塞村の村長といえど、さすがにこの数の男たちを前に勝つのは難しいだろう。おまけに、トアの陣営は女の子ばかりという構成。これではどう転んでも勝ち目はない。


 そう思っているのは向こうも同じようで、武器を構える男たちはトアとその仲間を見下したような目で見つめている。


 ――だが、その態度は一瞬にして覆る。


「邪魔をするんなら引っ込んでいな!」


 リーダー格の男がトアへと襲い掛かる――が、


「はあっ!」


 トアは男の剣を軽々と弾き飛ばす。さらに、聖剣から放たれる強力な魔力で生み出した風魔法により、男は凄まじい勢いで吹っ飛ばされる。

 要塞村の面々からすれば、見慣れた光景だ。ルーシーも、五隻の武装船を相手に大立ち回りを繰り広げた姿を見ているので、驚きは薄い。


 だが、デイロと手下の男たちからすれば信じられない光景だ。

 十代の若造が、戦闘経験豊富な大男を一撃で吹き飛ばしたのだから無理もない。トアは一見すると普通の少年だが、神樹ヴェキラの加護を受け、聖鉱石によって作られた聖剣を手にしているなど、この場にいる者たちは誰も想像さえできていなかった。


 おまけに、強いのはトアだけじゃない。


「さあ、トアに続くわよ!」

「久々に暴れるとするかのぅ」

「お供いたします」

「私もできる限り助力します!」


 クラーラ、ローザ、フォル、ジャネットの四人も加わり、手下たちを一掃していく。


「す、凄い……」

「エルフにドワーフに甲冑兵に魔法使い――要塞村の村民というのは……皆あれほど強いのか?」

「は、はい! 要塞村の人たちは凄いんです! 今日ここには来ていませんが、同じくらい強い人たちがまだたくさん村にはいるんです!」

「な、なんという……」


 驚きで声が詰まるデイロ。

 要塞村の噂は、他種族との交流がほとんどないカオム島にまで届いていたが、まさかこれほどとは思ってもみなかった。


 人魚族ふたりが呆気に取られている中、トアをはじめとする要塞村の面々はあっという間に男たちを退ける。だが、やはりというか、敵はただの下っ端集団にすぎないようで、本命は奥に潜んでいるらしい。それらの情報は、逃げだす男たちの「ボスに報告だ!」という捨て台詞から判明した。


「まだ黒幕がいるのか」

「ナタリーさんが前に相当厄介な組織って言っていたから、まだまだいろいろと隠していそうね」


 剣を収めたトアとクラーラがそんな会話を繰り広げ、他の三人も戦闘態勢を解除した。


「やりましたよ、デイロさん!」

「ああ……まったく、見事な手並みだ」


 デイロは苦笑いを浮かべつつもゆっくりと立ち上がり、自分たちを助けてくれたトアへと歩み寄ってゆっくりと手を差し出す。


「助かったよ、トア村長」

「いえ、こちらこそ……もっと早くに駆けつけられたらよかったのですが」

「そんなことはないさ。……本当に、よく来てくれた」


 固い握手を交わすトアとデイロ。

 

 こうして、要塞村と人魚族の出会いは、多少トラブルはあったものの、良好なスタートを切ったと言えた。

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