第302話 上陸
先乗りしたクラーラたちを追ってカオム島にたどり着いたトアとローザ。
そんなふたりの目の前に広がっていた光景――それは、案の定というか、予想された未来だった。
「また随分と派手に暴れたなぁ……」
美しい砂浜に寝転がる、武装した屈強な男たち。
皆、気絶をしているようだ。
「あ、トア♪」
すでに戦闘を終えていたクラーラが笑顔で駆け寄ってくる。
「島に上陸した途端、武装した連中が襲ってきたからびっくりしたわ」
「びっくりしたのは突然現れた控えめなバストをしたエルフにボコボコにされた彼らでしょうに」
「誰のバストが控えめだって!」
後から来て余計な一言を付け加えたフォルの後頭部を吹っ飛ばしてから、改めて現場の状況を説明した。ちなみに、フォルが背負っていたルーシーは魔力により人間と同じ足を持ち、二足歩行になって持ってきていたスカートを着用している。
「この島だけど……とりあえず、この辺りに関してはもうあの怪しい武装船の連中は残っていないようね」
「島の奥にはまだいるかもしれませんが」
いつの間にか合流していたジャネットは、砂浜の向こうに見える森へと視線を移しながらそうこぼした。
「ルーシー、人魚族がいるのって……」
「……島の奥です」
「どうやら、ジャネットの予想は正解のようじゃのぅ」
ここにいる者たちだけでなく、指揮を執っていたリーダー格の存在が待ち構えている――そう思うと、一瞬、森へ入るのを躊躇うが、
「トアよ、安心しろ」
「えっ?」
「すでに使い魔を数体ほど要塞村へと飛ばした。その伝言を聞いた者が、セリウス王国へ働きかけるはず――きっと、ケイスかシャウナあたりじゃろうな」
つまり、救援が来るということらしい。
「……まあ、だからといって大人しく待っているわけにもいかないな」
「私とトアだけでも十分なのに、ローザさんやジャネットまでいるんだもん。悪党まとめて成敗できるわよ!」
「誰かをお忘れではないですか?」
ニュッと顔を出したフォル。
だが、忘れていたのは存在というより、フォルに内蔵された機能の方だ。最初にそれを思い出したのは、その機能をフォルに搭載した張本人・ジャネットだった。
「そうだ。フォルのサーチ機能があれば、この島の状況が分かりますよ」
「ようやく思い出してくれましたね、ジャネット様」
待ってましたとい言わんばかりに、フォルはすぐさまサーチ機能を発動させる。
「かなりの生体反応がありますねぇ……そのほとんどが島の中心に集まっています」
「人魚族以外の種族かどうかは分からないか?」
「さすがにそこまでは……」
真相を知るには、やはり森を通って島の中心を目指さなければならないようだ。
「仕方ない。行くとするか」
「このままここにいるってわけにもいかないしね」
「気を引き締めていくんじゃぞ」
トア、クラーラ、ローザの三人は臨戦態勢を取りながら一歩前に出る。ジャネットとフォルはルーシーを守るように両サイドにつき、トアたちのすぐ後ろから森へと入っていった。
目指すは、カオム島中心部。
◇◇◇
森の中を進んでいくと、やがて川に出た。
ルーシー曰く、この川を進んだ先に、人魚族の集落があるという。
その指示に従って進むと、やがて水に浸かる古代遺跡群が姿を現した。
「す、凄いな……」
「シャウナが見たら喜びそうじゃ」
世界を救った英雄・八極のひとりでありながら、考古学者としての一面も持つシャウナにとって、こういった遺跡群は大好物だろう。
だが、今は古代遺跡よりも人魚族の集落だ。
「間もなく到着しますよ」
ルーシーの言葉を受けて警戒を強める五人。
――ところが、
「特に誰ともすれ違わないし、そもそも気配を感じない」
「あの武装船に乗っていたのは、砂浜にいたので全員ってこと?」
クラーラの質問に対して、誰も明確な回答は送れなかった。
さらに進んでいくと、
「!? あれは!?」
遺跡群の奥――そこには開けた陸地があり、人がいた。
「っ! デイロさん!?」
その人物を見た瞬間、ルーシーが叫ぶ。
「デ、デイロって……」
デイロとは、かつて八極にも誘われた過去を持つ海淵のガイエルという凄腕の人魚族の息子であり、現在の人魚族の長である。
そのデイロは、よく見ると数人の男たちに囲まれている。
囲んでいる男たちは剣や斧を構えており、ピリピリとした険悪なムードが漂っていた。
やがて、対面する男が斬りかかろうと剣を天へとかざした。
「まずい!」
「お任せあれ!」
フォルが魔力で生み出した火炎球を、デイロと対峙する男へと放つ。男は直撃寸前のところで攻撃に気づき、ギリギリ回避した。
その隙に、トアたちはデイロのもとへと駆けつける。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……君たちは?」
「デイロさん! この人たちがトア村長――要塞村の村長さんですよ!」
「ト、トア村長……!?」
弱っていたデイロは、トアの存在を確認するとそのまま気絶してしまった。
「こんなになるまで……」
デイロの生き様を目の当たりにしたトアは再び剣を抜く。
「ここからは――俺たちが相手だ」
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