第301話 海上決戦

 人魚族が暮らすカオム島へ向かって進路を取る五隻の船。

 その目的を知るべく、まずはローザと共に箒に乗って接触を試みようとするトア。

 船に近づくと、新たな情報が目に飛び込んできた。


「あの船……武装している?」


 船体からのぞく砲台。

 どうやら、商船というわけではないらしい。ますます怪しさを増していく謎の船――それを見回していたトアは、あることに気づいた。


「あれは……!」


 トアが目にしたのは船体に描かれた黒いカラスのマークだった。


「あのカラスのマークがどうかしたのか?」

「……以前、ヘルミーナさんが結婚詐欺に遭いかけたことを覚えていますか?」

「結婚詐欺? ……あったのぅ、そんなことも」


 まだ、ヘルミーナがステッドと出会う前――婚期に焦りを覚えていた頃。

 ロニーと名乗る《調合士》のジョブを持つ男がヘルミーナへと近づき、いい感じになっていたことがあった。しかし、ロニーは最近暗躍しているというカラスのタトゥーをした商人たちで構成される謎の商会の一員であり、ヘルミーナへ近づいた目的は、エノドア鉱山で採掘される良質な魔鉱石を手に入れることだった。


 だが、この目論見は寸前のところで発覚し、エノドア自警団と要塞村の面々によって阻止されている。


 その際、パーベルの港湾警備隊が、彼らの組織が所有しているものと思われる武装船を目撃したと情報提供していた。


 恐らく、目の前にいる五隻の船は、その時に目撃された武装船と同一か、あるいは同組織の持ち物である可能性が高かった。


「もし、あの船に乗っている人たちが、あの時の悪党ならば……」

「遠慮は必要ないのぅ」


 トアがローザの言葉に頷いた直後――「ドォン!」という砲撃音が響き渡った。


「! ヤツらめ……問答無用で撃ってきたのぅ」

「どう考えても、人魚族とお友だちになろうって感じじゃなさそうですね」

「むしろ、力づくで言いなりにさせようとしておるようじゃな」

「向こうがヤル気だというなら、こちらも応戦しましょう」


 トアとローザは一隻の武装船に狙いを定めると、真っ逆さまに急降下。船にいたのはこちらも武装した屈強な男たち。商談に訪れたわけではないというのは一目瞭然だった。


「やれ、トア!」

「はい!」


 ローザの掛け声で箒から飛び出したトアは、



「はあっ!!」


 

 聖剣エンディバルを抜き、神樹の魔力を全開放して武装船を叩き斬る。

 トアの何倍もあり、百人近い乗組員がいる武装船は、無残にも真っ二つとなって海の藻屑となった。


「よっと」


 海面に浮かぶ残骸を足場にして、トアは無事に着地。そこを狙って、


「撃てぇ!」


 別の武装船から砲撃が放たれるが、トアは落ち着いていた。

 

「ふん!」


 聖剣で向かってくる砲弾も真っ二つにしてしまう。


「相変わらずの威力じゃなぁ」


 箒に跨り、上空からその様子を眺めていたローザ。

 しかし、近くの武装船に搭載された砲台が、こちらへ照準を合わせていることに気づくと、すぐさま魔力の錬成を開始。


「八極のひとりであるこの枯れ泉の魔女を狙うとは……いい度胸じゃな!」


 ローザは自身を狙っている船に魔法を放つ。

 その魔法は竜巻へと姿を変え、自分を狙っていた船だけでなく、周囲の武装船も巻き込んで上空へと舞い上げた。


「海水で頭を冷やしてこい」


 トアとローザが武装船を次々と沈めていく。この調子なら、カオム島に到着する前にすべての船を退けられるはず――そう思っていたふたりは、あることに気づいた。


「ローザさん!」

「うむ……まずいのぅ」


 ふたりが見た光景は、カオム島に二隻の武装船が停泊しているところだった。


「手遅れだったなんて……」

「まだあきらめるには早いぞ、トアよ。こいつらを片付けたらすぐに島へと向かえば――」

「それなら私たちが先行しますよ!」

 

 突如上空から聞こえてきた声。

 それは、守護竜シロに乗って駆けつけたクラーラのものだった。


「クラーラ!? どうしてここに!?」

「砲撃音がしたから、心配になって飛んできたんですよ!」

「ジャネット!」

「僕もいますよ、マスター!」

「大丈夫ですか、トアさん!」

「フォルにルーシーまで……」


 シロに乗っていたのは待機しているはずの全メンバーだった。


「みんな! 先に島へ行ってくれ! さっきの武装船の仲間がすでに島に上陸しているみたいなんだ!」

「任せて! ルーシーの生まれ故郷で好き勝手やっているようなら、全員まとめてぶった斬ってやるわ!」


 大剣を背負うクラーラの力強い言葉を残して、シロはひと足先にカオム島に向かって飛んでいった。


「……シロだけで十分だったかもしれませんね」

「まあ、よいではないか。クラーラがあれだけ張り切っておるのじゃ。ワシらが到着する頃には全滅しておるじゃろう」


 乾いた笑いを浮かべるトアとローザは、少し遅れながらもシロを追ってカオム島を目指すのだった。

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