第292話 すべては五年前に始まっていた

【いよいよ本日発売!!】


「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます! 


8万文字以上の大改稿!

WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!


お楽しみに!


…………………………………………………………………………………………………




 五年前――



 ある夏の日、フェルネンド王国聖騎隊とセリウス王国騎士団は、それぞれの養成所から成績優秀者を集め、合同での訓練を行うことになっていた。


 その様子は両王国の王家も毎年視察にやってくるほど盛大なイベントとなっている。


「これほどの数の若い兵士が集まるなんて……凄いですね! ケイス兄さん! バーノン兄さん!」

「ジェフリー、少しは落ち着いたら?」

「ケイスの言う通りだ。王家の人間たるもの、もっと堂々と胸を張り、落ち着いていなければならないぞ」

「は、はい! 肝に銘じます!」


 観覧席ではセリウス王家の三兄弟も揃って見に来ていた。

 貴族たちが話し合っている席では、セリウスのチェイス・ファグナスやフェルネンドのディオニス・コルナルドの姿もあり、また、騎士団と聖騎隊の関係者として、まだ若手だったヘルミーナとステッドも参加していた。


 そんな中、セリウスとフェルネンドの未来を担う若い兵たちは、日頃の訓練の成果を見せるため、演習でも全力で挑んでいった。

 その結果――


「でやああああああああっ!」

「ぐわっ!?」


 トアがセリウス側の大将を討ち取ったことで、フェルネンド王国聖騎隊の勝利で合同演習は幕を閉じたのであった。




 その日の夜。

 



「今日の演習はトアのおかげで勝てたな!」

「最後の一撃は特に見事だった」

「さすがはうちのエースね」

「本当に凄かったよ、トア!」

「そんな……みんなのおかげだよ」


 エドガー、クレイブ、ネリス、エステル、そしてトアの五人は宿舎として用意されていたセリウス王都内の建物の中庭でおしゃべりをしていた。

 その時、トアは近くにある茂みの向こうから誰かの声を聴いた。それはなんとなく、悲鳴のように思えた。


「今の……」


 トアはおもむろに走りだす。


「トア!?」

「どうしたんだよ!」


 エステルやエドガーが声をかけるも、トアは止まらない。本能的に、誰かが助けを求めている気がしたのだ。


 そして――それは現実のものとなる。


「! いた!」


 そこには自分と同じくらいの年をした少女が、三人の男たちに馬車の荷台へ押し込まれる直前だったのだ。


「やめろ!」


 トアが叫ぶと、男たちは一瞬怯んだものの、武器を持たない子どもであることに気づくと態度を一変。逃げるどころか剣を抜いて向かってきた。

 そこで、トアは初めて自分が丸腰であることに気づいた。


「見られたからには生かしちゃおけねぇ!」


 一番大柄の男が、トアへと斬りかかる。

 まずい、と思った瞬間――強烈な突風が吹き荒れ、それが男を襲い、その巨体がグワッと宙を舞った。


「い、今の――魔法か!?」


 トアはハッとして振り返る。


「大丈夫、トア!?」

「ったく、後先考えずに突っ走るんじゃねぇよ!」

「だが、おまえのその向こう見ずなところも俺は魅力だと思っている」

「クレイブ……自嘲しなさい」


 エステル、エドガー、クレイブ、ネリスの四人が駆けつけた。先ほどの魔法は、エステルが放ったものらしい。


「こ、こいつら……ガキのくせに!」

「ま、待て!」


 もうひとりの小太りの男が剣を抜いた時、最後のひとりがその行動を止める。


「なんだよ!」

「あいつらの来ている服――間違いねぇ! フェルネンド聖騎隊の制服だ!」

「フェ、フェルネンド聖騎隊……!?」


 セリウス騎士団との合同演習のため、フェルネンド聖騎隊がセリウス王都へ来ていることを知っているらしい男たちは震えた。

当時、フェルネンド聖騎隊は世界でも屈指の強さを誇る戦力を有していたため、たとえ子どもであっても悪党としては関わりたくないというのが本音だろう。

 男たちは一目散に逃げだし、さらわれかけていた少女は無事だった。


「大丈夫?」


 その場に座り込んだまま震えている少女に、トアは優しく声をかけて手を差し伸べた。


「あ、ありがとうございます……」


 少女はなんとか声を振り絞って、トアに礼を述べたのだった。




 ……………………

 …………………………

 ………………………………




「――って、いうことがあったの覚えていない?」


 エノドア診療所でトーニャの目覚めを待つ間、すっかり記憶が抜け落ちているエステルとエドガーにネリスが説明をしていた。


「あったなぁ……そんなこと」

「その時に助けた子が、アスロット家のトーニャお嬢様だったのよね」


 ネリスの説明を受けて、エドガーとエステルは完全に記憶を取り戻していた。


「だが問題は……なぜそのトーニャ嬢が、トアの子どもを妊娠したなどと妄言を吐いたかという点だ」

「……クレイブ? ひょっとして怒ってんのか?」

「別に」


 素っ気ない感じに言ったが、明らかに怒気がこもっていた。

 すると、そこへヘルミーナがやってくる。


「ちょうど揃っているようだな」

「どうしたんですか、ヘルミーナさん」


 クレイブが尋ねると、ヘルミーナは寝ているトーニャへと視線を移しながら話し始める。


「要塞村から、ローザ殿の使い魔が伝言を持ってきた。今、トアがトーニャ嬢の関係者と名乗る男と共にエノドアを目指しているとのことだ」


 ヘルミーナがそう伝えると、まるでそのタイミングを待っていたかのように、


「う、うぅん……」


 問題の発端となったお嬢様――トーニャ・アスロットが目覚めた。

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