第291話 明かされる関係

【いよいよ明日発売!!!】


「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます! 


8万文字以上の大改稿!

WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!


お楽しみに!


…………………………………………………………………………………………………



 トアの名を呟く謎の男の正体を見極めるため、トアはパーベルを訪れていた。

 診療所には町長のヘクターもおり、誰かと話し込んでいるようだが、


「あっ、目が覚めたようですね」


 マリアムのひと言で、ヘクターと話をしている青年が、トアの名を口にしながら気絶したという人物だと分かった。トアは遠巻きからその青年の顔をチェックするが――やはり、見覚えのない顔だった。


「一体誰なんだ……?」


 恐る恐る近づいていくと、向こうもこちらに気づいたようだ。近くにいたヘクターが「あの少年がトア・マクレイグ村長だ」と告げると、青年の表情は険しいものへと変貌する。その様子から、どうやらグウィン族のココのように、助けを求めて探していたというわけではなさそうだ。


「あっ、えっ、えっとぉ……初めまして?」


 思わず疑問形になってしまうくらい、トアには心当たりがなかった。

 青年は小さく一礼すると、自分の名を語った。


「初めまして。僕はアスロット家の庭師でシモンといいます」

「アスロット家の庭師?」


 ますます接点が感じられない職種だ。

 ……しかし、アスロットという名はついさっきも聞いた。


「……トーニャ・アスロットの件と、何か関係があるんですか?」

「!?」


 青年シモンの目がカッと見開かれる。

 だが、その力強い瞳はすぐに伏せられた。


「あなたは……ご自分がトーニャにしたことを覚えていないのですか?」


 トアがトーニャにしたこと――それは恐らく、エドガーが言っていた妊娠騒動についてだろう。しかし、その件についてトアはまったくの無関係だ。トーニャ・アスロットという名に聞き覚えこそあるが、その顔さえまともに思い出せないのだから。


「あの……シモンさん? トーニャお嬢様が言っているとされる妊娠の相手ですが――それは俺じゃないですよ?」

「えっ? ど、どういうことですか!?」


 トアの言葉に動揺するシモン。

 一方、初めてアスロット家のトーニャ嬢が妊娠し、しかもその相手がトアであるという疑いをかけられていたことを初めて知ったヘクターとマリアムも驚く。

 しかし、トアをよく知るふたりは、トアが嫁入り前の貴族令嬢を妊娠させてしまったという情報に対し、


「「ないないない」」


 バーノン王子や領主チェイス・ファグナスとまったく同じ反応を示した。


「し、しかし、確かにお嬢様はあなたの名を出されました!」

「それが分からないんですよねぇ……俺はトーニャお嬢様とお会いしたことは――」


 その時、トアの脳内で、消えかけていた記憶が鮮明な輪郭を見せ始める。


「……あれ? もしかしてあの時の――」


 脳裏によみがえった記憶をさらに呼び起こそうとするトア。

 すると、


「ヘクター町長、大変です!」


 ヘクターの屋敷のメイドが、大慌てで部屋へと入ってくる。


「こら! 今は来客中だぞ!」

「す、すみません……ですが、そのお客様にも関係のある一報がエノドアから届きました」

「エノドアから?」


 エノドアといえば、トーニャ・アスロットについてクレイブとネリスに話を聞くため、エステルとエドガーが向かっていったはず。もしかしたら、そのことで何か分かったことがあるのだろうか。


 ――が、メイドが報告した内容は、トアが想定していたもの以上の衝撃を与えた。



「エノドア近くの森で……アスロット家のトーニャお嬢様を保護したとのことです」

「「「「ええっ!?」」」」


 トア、ヘクター、マリアム、そしてシモンが同時に声をあげた。



  ◇◇◇



 エノドア診療所。

 

「まさかトーニャ・アスロット本人が保護されているとは思わなかったぜ」

「本当ね」


 エノドアに到着したエステルとエドガーは、偶然出会ったネリスに状況を説明。すると、先ほどクレイブとタマキがそのトーニャ嬢を近くの森で保護したと教えてもらったので、ここへとやってきたのだ。


「なあ、ネリス。おまえは聞き覚えがないか? トーニャ・アスロットって名前に」

「? セリウス王国の貴族でしょ?」

「その他に……昔、私たちと何か関わりがなかった?」


 トアの名前を出したトーニャと、何か接点がなかったか尋ねるエステルとエドガー。そこへクレイブがやってきて、


「なんだ、ふたりは忘れたのか?」


 と、言い放つ。


「ク、クレイブは覚えているのか、この子を!?」

「あっ、私も覚えているわよ」

「ネリスまで!?」


 どうやら、クレイブだけでなくネリスも覚えているらしい。


「ほら、聖騎隊の養成所にいた頃、セリウスとの合同訓練があったでしょ? その時――」


 ネリスは静かに語り始める。

 自分たちとトーニャ・アスロットの接点について。



 ――すべては今から五年前の出来事からだった。

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