第290話 トアを捜す者たち

【お知らせ】


「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます! 


8万文字以上の大改稿!

WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!


お楽しみに!!


…………………………………………………………………………………………………




 セリウス王国の貴族――アスロット家の令嬢・トーニャが、要塞村の村長であるトアの子どもを妊娠したという発言が発端となった騒動は、各地にその影響を及ぼし始めていた。


 特に、やはりというか、一番の被害をもたらしたのはトアのいる要塞村だ。


「でも、どうしてそのお嬢様はトアの名前を出したのかしら」

「本当に……ねぇ、エドガーくん。その貴族の名前って分からないの?」

「あくまでも噂で聞いただけだから信憑性はないかもしれんが……アスロット家のトーニャ嬢って話だ」

「トーニャ・アスロット……どこかで聞いたことがあるような……」

 

 トアの言葉に、四人の女子たちが反応を示す。


「えっ? まさか……心当たりが?」

「な、ないよ! いつ会ったかも思い出せないのに!」

 

 クラーラが向けた疑惑に対して真っ向から否定するトア。

 一方、エドガーは意外な反応を見せる。


「そのトーニャって名前……実は俺も聞き覚えがあるんだ」

「わふっ? エドガーくんも知っている人なんですか?」

「もう、エドガーくんったら……どこの町で声をかけた子なの?」

「エステル、俺が年がら年中ナンパしているみたいに言うなよ」

「えっ? 違うの?」

「トアまで!?」


 ――と、ひと通りエドガーをいじり終えたところで、本題へと移る。


「本当のことを言うと、私もトーニャ・アスロットっていう名前に聞き覚えがあるんだけど……どこの誰だったかは覚えていないの」

「エステルもなのか……俺やエステル、そしてエドガーに共通することといえば――」


 答えはひとつしかない。


「「「元聖騎隊の一員?」」」


 それしか考えられなかった。

 だが、この説には無理がある。


「しかし待てよ……相手はセリウスの貴族令嬢なんだろう? だったら、フェルネンド王国の聖騎隊にいたっていうのはあり得ないよな?」


 エドガーの指摘に、トアとエステルは頷く。

 聖騎隊への入隊の絶対条件として、フェルネンド王国の民でなければならないという項目が存在している。しかも相手はセリウス貴族の令嬢。そういった仕事に就きたいというなら、わざわざ他国の組織に属さなくても、セリウスにはセリウス騎士団が存在するのだ。


「私たちが知っているなら、クレイブくんとネリスも知っているんじゃないかな?」

「その線は濃いな」

「よし、じゃあエノドアへ行って、クレイブとネリスにも話を聞いてこよう」


 自分の名前を出された以上、放っておくわけにはいかない。

 とりあえず、聖騎隊つながりでクレイブとネリスを訪ねるため、トア、エステル、エドガーの三人でエノドアへと向かおうとすると、


「トア~、お客さんよ」


 要塞市場をまとめるナタリーが、トアを呼び止めた。


「このタイミングで客とはなぁ……」

「トアは忙しいから」

「ごめん、ふたりとも」

「まあ、しょうがねぇか。情報収集は俺とエステルに任せてくれよ」

「頼む。クラーラたちは村に残って、何か情報が飛び込んできたらあとで教えてくれ」

「分かったわ」

「わふっ!」

「了解です」

「フォル。君は地下古代遺跡にいるシャウナさんたちに差し入れを持って行ってくれ。本当なら俺が行くはずだったけど、急用で行けなくなったとも伝えてほしい」

「妊娠疑惑騒動の件については報告しますか?」

「……ややこしくなりそうだから秘密で」

「それが最善の判断と僕も思います」


 最後にそう確認して、トアはナタリーと共に来客のもとへ。

 エステルとエドガーはエノドアへと向かった。




「トア村長、お久しぶりです」


 トアへの来客とは、パーベル町長ヘクターの秘書を務めるマリアムだった。 


「マリアムさん? 何かあったんですか?」

「それがですね……」


 マリアムは訪問した理由をゆっくりと語りだす。

 先日、港湾警備隊の一員で、聖騎隊の元上司でもあるジャン・ゴメスが保護した男が、しきりにトアの名を口にしていたので、何か心当たりはないかと相談しに来たのだという。

 現在、意識が戻っていない状況なので名前などの情報を聞きだせてはいないが、外見の特徴から知っている人物か尋ねる。

 ――が、トアにはまったく覚えのない人物だった。


「……分かりました。直接会ってみます」

「えっ? よ、よろしいんですか?」

「話を聞いたイメージと違っているかもしれませんし、もしかしたらその人、もう目が覚めているかも」


 短期間のうちに、トアの名を口にしたふたりの人物。

 アスロット家の令嬢トーニャと、パーベルで保護された謎の青年。

 このふたり――何か関係性がある。


 そう直感したトアは、まずパーベルの青年に直接会うことにしたのだ。



  ◇◇◇



 トアたちが要塞村を出る少し前。

 エノドア自警団のクレイブとタマキは、鉱山で働く男たちからの通報を受けて町外れの森へと来ていた。

 かつては屍の森と呼ばれ、ハイランクモンスターがうようよしていたため、誰ひとり近づかなかったが、要塞村やエノドアに住む人が増えてくると、その数は激減していった。

 とはいえ、まだまだモンスターの姿は見られる。

 そんな森に、ひとりの少女がいたというのだ。

 何か事情があって、ここまでやってきたに違いない――これまでも、そういった人々を保護してきた経験があるため、クレイブとタマキは今回もその類だろうと考えていた。


 ――しかし、実際にその少女を発見した時、クレイブとタマキは驚いた。


「この子……どう考えても一般人ではないですよね?」

「ああ……」


 発見した当初、少女は疲労のためか、木の幹に背中を預けて熟睡していた。

 注目したのはその服装。

 ドレス調で、明らかに一般人が身につけるものではない。


「もしかしてどこかの貴族では……?」

「…………」

「? クレイブ殿?」


 腕を組んだまま、少女の顔をジッと見つめるクレイブ。やがて、何かを思い出したようにボソッと呟いた。


「この子は……トーニャ・アスロットじゃないか?」

「アスロットって……やっぱり貴族の!? というか、クレイブ殿はお知り合いだったんですか!?」

「まあ……昔ちょっとな……それにしても、なぜ彼女がこんなところに……」


 クレイブたちが保護したのは、渦中の人物――トーニャ・アスロットだった。

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